警察に相談できるようになったが、元カレによる殺害はなくならない

2000年(平成12)にストーカー規制法が施行され、警察に気軽に相談できるようになったこと自体は大きな前進であったと言える。言えるのだが、ストーカーによる殺人は相変わらずなくなることがなく、例えば2012年の逗子ストーカー殺人事件(2006年に別れた元カレに度重なるストーカー被害に遭った後、殺害されてしまう。加害者は自殺)や、2013年の三鷹ストーカー殺人事件(SNSで出会った優秀な女子高生と、大学生と偽って交際したトラック運転手が、彼女の留学を機に別れることとなりストーカー化し殺害。この事件をきっかけにリベンジポルノ被害防止法が成立。懲役22年求刑)、2023年に横浜市の自宅マンションで18歳の女子大生が元交際相手に殺された事件などの衝撃は記憶に新しい。

今回の「西新宿タワマンストーカー殺人事件」は、被害者女性と加害者男性は交際していなかったのだが、男性は彼女を恋人だと思い込んでいた。そして、今回の事件も、逗子や三鷹や横浜の事件も、被害者は事前に、警察に相談していたのだ。2023年、博多駅路上で女性会社員が元交際相手に刺殺された事件も被害女性は県警に相談しており、元交際相手には「禁止命令」が出され、彼女は緊急通報装置を持って生活していた。しかし、博多駅近くで加害者に出くわし刺殺されてしまったのだ。

写真提供=共同通信社
送検のため、警視庁新宿署を出る和久井学容疑者=2024年5月9日

警察庁の統計によると、この12年間、ストーカー事案の相談等件数は年間2万件前後と高い水準で推移しているという(図表1)。実際問題、警察がその全員を何年にもわたって完全警護するというのも難しい話だ。ただ、被害者の9割近くが女性であることを鑑みると(図表2)、最悪、力でかなわない相手に狙われたら成すすべがない。だとしたらストーカーに狙われた女性たちはいかにして自衛すればよいのだろうか?

恐怖だった「彼氏だった男がストーカーになる」という実体験

私の所にもストーカー被害に遭っている女性からの相談は定期的に来る。

警察に相談したり、引っ越ししたり、周囲の人に相談し協力を仰いだり、要は「ちゃんと怖がっている女性たち」においては多少安心なのだが、正常性バイアス(人間が予期しない事態に対峙した時に「そんなことありえない」という先入観が働き、正常の範囲内だと認識しようとする心の働き)がかかっている女性から軽い感じで相談を受けた時、心の中のエマージェンシーコールが過剰に鳴り響いてしまう。

相談者からは「心配し過ぎです。そこまでじゃないんで」と言われるが、実は私も若かりし頃、付き合っていた人に別れ話を切り出したところ、納得してもらえず、「彼氏だった男がストーカーになる」という経験者だ。

最初はすぐに収まると思っていた。思っていたのだが電話やメール攻撃、待ち伏せは続いた。結局、避難のため1カ月程ビジネスホテルで過ごし、ほとぼりが冷めただろうと高をくくって自宅に戻ったら張り込んでいた元カレに首を絞められた。警察を呼んで事なきを得たが、当時の私だってそこまで大事になるなんて思ってやしなかったのだ。