以前、この報告会とは別に、恩人たちがヤフードームに招かれたことがあった。交流戦のホークス対阪神タイガース。オーナー席で孫は熟成された高級赤ワインを恩人たちに注いで回った。前出の工藤はひと口飲むとこう言った。

「孫ちゃん、俺みたいな酒飲みにこんないいワインはもったいない。もっと普通のでいいよ。それに昔はこっちも商売で一緒に組んだのだから『恩人』って……。気を使ってもらうのは申し訳ないよ」

ちょっと照れ臭さそうに語る工藤に、孫はいやに真面目な顔で答えた。

「何を言うんです。今の僕には多くの人が声をかけてくれます。でも工藤さんたちは、人脈も資金も何もない苦しいときの僕を支えてくれた」

こういう気持ちを「報われた」というのかな、とそのとき、工藤は感じたのだった。

ところで、30年前のポーカーの大一番。勝ったのは、工藤だった。手札は、なんと、「A、10、J、Q、K」の最高の役ロイヤルストレートフラッシュ。工藤は今もたまに孫に会って、少し酔うと冗談めかして言うことがある。

「孫ちゃんにはポーカーの貸しがあるんだ。1兆2兆のソフトバンクの経営権、本当は俺にあるんだから(笑)」

そして昔、昼夜なく動き回っていた「仕事の相棒」としての挑発も、少し。

「最近ちょっと(活動が)静かだね? あまり現実的にならないでよ。あんたの持ち味は派手に有言実行、なんだからさ」

賭けて前進するのが孫スタイル。そんな工藤の意見を、孫は背筋をピンと伸ばし、恩人たちが異口同音に語る、あの「地球の裏側を見通すような瞳」でじっと聞いていた。(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(小倉和徳、本田 匡=撮影 PANA=写真)
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