そして、こう続けたのだ。

「ここに書かれている役の強さは本当に本当だよね、孫ちゃん」

「はい、もちろん」

「わかった、こっちもハドソンを賭けよう」

手札を見て、明らかに態度が強気になったように見えた工藤だが、孫も下りない。表情も変えない。相手は、弱い手を強い手に見せるハッタリに違いない。共に負けず嫌いの性分を、文字通りポーカーフェイスで覆い隠し、腹を探り合う心理戦。このころ、時代を揺り動かす若手創業者として世間の目を集め始めていた2人の青年の大一番。この後、誰も予想できぬ奇跡が起きたのだった――。

はじめて会った男に「僕は天才です」

巨大グループのトップに立つ人、孫正義。孫の立身出世に関してよく知られるエピソードとして、高校時代に『竜馬がゆく』に衝撃を受け、渡米を決意し、「1度しかない人生、志高く生き、何か世のため、人のためになることを」と考えたことがあげられる。また、19歳のときには「20代で自分の事業を興し、30代で最低でも1000億円の軍資金を貯め、40代でひと勝負し、50代でビジネスモデルを完成させる」という人生50年計画を打ち立て、53歳(※雑誌掲載当時)の今、ほぼその通りに実行中だということも驚きに値するだろう。多くの企業がもがき苦しんだ、失われた10年やデフレの最中、なぜ孫は「プラン通り」できたのか。湧き出す事業欲の源は一体何なのか。その答えは、吹けば飛ぶような創業前後の、20代前半の孫の波乱万丈と邂逅にあったのだ。