サムスン電子元常務の吉川氏は、韓国の中間管理職層の「気概」を見習うべきだと説いた。
「サムスンでは課長昇進段階で厳しく振り分けられます。だから、彼らは命を懸けている。昇進に漏れれば、自尊心が傷ついて辞める者もいます」
もちろん、健全な環境という意味では、「韓国式」が正しいとは言い切れない。前出の安氏は言う。
「サムスン電子などのR&D部門だと、40代で年収1億円を超すこともあります。一方、韓国では非正規社員も多く、賃金格差は日本よりはるかに大きい。政府も雇用安定化へ動き始めています」
ソウルで話を聞いた40代前半の「サムスンマン」( http://president.jp/articles/-/8179 )も、「定年まで勤めたいが、いさせてもらえるとは限らない」と漏らした。サムスン電子の定年は韓国では一般的な55歳だが、平均在職年数はたった8年程度。日本はリストラをしにくい法環境にあるのに対し、韓国ではIMF危機以降、法的に許容されるようにもなっている。
私の新聞記者時代の同僚で、現在はソウルの大学で日本語講師を務める50代男性は、「一流企業に勤める中年受講生の中には、『田舎に帰って飲食店を開こうかな』なんて弱音を吐く人も多い」と明かした。それだけ過酷な現実がある。こうした背景もあり、12月の大統領選を前に、拡大を続ける財閥への批判も高まっている。
それでもやはり、世界市場で結果を出している韓国のほうが優勢に見える。だが、仮に韓国の財閥の力が弱まったとしても、日本企業の人材が成長するわけではない。
孫子の兵法ではないが、日本企業は今、「相手を知り、己を知る」ことこそが求められている。隣国のライバルに「負けている」現実に向き合って初めて、新たな地平も開けるのだ。