支店長の細かさを象徴する次のようなエピソードもある。いつもはあまり使っていない応接室で、他の支店の管理職を招いて会議を行い、無事に終わって、くつろいでいたところ、壁のカレンダーが1枚めくられておらず、前月のままだったのを支店長が目ざとく見つけて激怒した。その怒り方が半端ではなく、延々と続いたので、部下はみな唖然としたそうだ。

たしかに、カレンダーを1枚めくり忘れていたのは落ち度だが、ちょっと注意すればすむことだ。しかも、普段は使っていない応接室なのだから、仕方がないだろう。他の支店の管理職だって、壁のカレンダーなど気にしていないはずだ。

にもかかわらず、この支店長は延々と説教して行員を辟易させたわけで、これは完璧主義の弊害のように見える。この支店長は完璧主義者で、何事も100点満点でないと気がすまず、周囲から「几帳面」「仕事が丁寧」などと評価され、ほめられることが多く、ずっとそれでいいと思ってきたのだろう。

若い頃は、完璧を期すために自分が納得するまでやり、その確認作業にかなりの時間を費やしても、「自己完結型」だったので、それほど迷惑をかけることもなく、周囲からも許されてきたのかもしれない。しかも、その結果出世したという成功体験もあったので、支店長になってからも同じやり方を続け、周囲にも完璧を求めるあまり、少しでも手落ちがあると怒り出すと考えられる。

これは困った事態を招く。なぜかといえば、自身の完璧主義を貫き、100点満点を追求しようとするあまり、部下を巻き込む「巻き込み型」になっているからだ。そのせいで部下は息苦しさを感じ、畏縮してしまう。第一、少しでも間違いがあったら怒られるという恐怖から綿密に確認することに時間を取られて、肝心の仕事が円滑に進まなくなる。場合によっては、細かいことにこだわりすぎて、大きな問題が見えなくなりかねない。

完璧主義の弊害

実際、支店長の完璧主義ゆえのこだわりのせいで、肝心の融資業務に支障をきたしているようだ。というのも、支店長は、かつて本店に勤務していたのが自慢の種らしく、ちょっとしたことでも「本店に電話して確認しろ」と指示するので、行員は怒られないように電話するのだが、それに時間を取られるからだ。

ところが、ある課長が研修で本店に行ったところ、本店勤務の同期から「おたくの支店は、すごく細かいことで本店に頻繁に電話してくるので、本店で話題になっている。あの支店長は、本店にいた頃も、細かいことばかり気にして、そのたびに確認しては業務を停滞させるので有名だった。だから、支店長といっても、小さな支店で定年前の上がりのポスト」と言われた。

この話は瞬く間に広がり、私の外来に通院していた行員は、「支店長が定年退職するまでの辛抱」と自分に言い聞かせながら頑張ることにした。その結果、睡眠導入剤を服用しなくても眠れるようになった。