プライバシーの懸念…360台の監視カメラが客を見張っている
ジャスト・ウォーク・アウトの問題は、正確性にとどまらない。プライバシーにも重大な懸念があると指摘されている。最大の問題は、尋常でない数の店内カメラだ。
CNBCのスクーロヴ記者は2022年8月、Amazon傘下で小売店舗を展開するホール・フーズ・マーケットを訪問している。同チェーンとして初めてジャスト・ウォーク・アウトを導入した2店舗のうち1つだ。
スクーロヴ記者は、「数百台という数のカメラが、野菜やクッキーを手に取る私の一挙一動を監視していました」と語る。
同局が捉えた店内の映像では、倉庫のように高く設けられた天井から、無数の黒いカメラが等間隔で吊られている。店内の棚の間を走る通路1列あたり、少なくとも28台のカメラが設けられていることを確認できる。仮に、店舗全体で通路が10列、横方向の連絡通路が3本ほどあると仮定した場合、店内に吊られたカメラの数は360台を超える。
1台置かれているだけでもプライバシーが気になる監視カメラだが、数百台のカメラに監視されながらのショッピングは異様な体験だ。カートにも秤が仕込まれ、入れたものの重量を把握しているという。
レジなしストアの特性上、無数のカメラの設置は避けられない。Amazonとは別にレジなし店舗の設置を進める米コンビニチェーンのLoopでは、ガソリンスタンドに併設された150平方メートルほどの小さな店内に、109台のカメラがひしめく。
まるでディストピア…入り口で掌紋を読み取られる店舗も
個人情報も心配のタネだ。ホール・フーズの導入店の場合、導入店舗は駅の改札のようなゲートで封鎖されており、身分を証明してからでないと入店できない。ゲートに設けられた小型カメラに手をかざし、「Amazon One」と呼ばれる個人認証・会計システムに掌紋を読み取らせてから入店する。
ほかにクレジットカードやAmazonアプリで入店する方法もあるが、いずれにせよ何らかの個人情報を渡したうえで、数百台のカメラに行動を監視されることになる。行動データは最大で30日間、店舗またはアプリに保存される。
英BBCは、イギリスに無人店舗のAmazonフレッシュが上陸した2021年3月、市民のあいだでプライバシーへの懸念が巻き起こったと報じている。大企業による個人情報収集に警鐘を鳴らす英市民団体「ビッグ・ブラザー・ウォッチ」のシルキー・カルロ氏は、「(Amazonフレッシュは)ディストピアのような、あらゆるものが監視されたショッピング体験をもたらす」と警告した。