「木を切る時間が5分あったら、最初の3分は斧を研ぐ」

もちろん、アイデアを開発し、脚本を書き、絵コンテを描き、それを何度となくくり返すことにも、コストはかかる。だがこの段階であれば、「試行錯誤のコストは少額ですむ」

この膨大で緻密な作業のおかげで、奥深く詳細で精緻で確実な計画ができあがる。ここでしっかり仕事をしておけば、制作フェーズに入ってからの作業はわりあい円滑、迅速に進む。これは大事なことだとキャットムルは強調する。なぜなら制作に入ると「コストが一気に膨らむ」からだ。

計画をゆっくり進めるのは、ただ安全なだけでなく、優れた方法でもあると、ピクサーの監督たちは指摘する。なにしろアイデア開発やイノベーションは時間のかかるプロセスだし、さまざまな手法やアプローチを取った場合の影響を検討することには、もっと時間がかかるのだから。

複雑な問題をひもとき、解決策を考え、それを検証するには、さらに時間がかかる。計画を立てるためには考える必要があるが、創造的で多面的で注意深い思考は、ゆっくりとしたプロセスなのだ。

エイブラハム・リンカーンは、「木を切る時間が5分あったら、最初の3分は斧を研ぐのに使いたい」と言った。これが、大型プロジェクトにふさわしいアプローチだ。円滑で迅速な実行を確保するために、計画立案に思慮と労力を注ごう。

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ゆっくり考え、すばやく動く──これが成功のカギだ。

逆に「すばやく考え、ゆっくり動く」とどんな悲劇が起きるか

「ゆっくり考え、すばやく動く」は、今に始まった考え方ではない。たとえば1931年に急ピッチで進められたエンパイア・ステート・ビルの建設は、まさにこのアイデアを体現していた。それに、この考え方は、少なくともローマ時代には存在していたと言える。ローマ帝国の偉大な初代皇帝カエサル・アウグストゥスは、「ゆっくり急げ」を座右の銘にしていた。

だがたいていの大型プロジェクトは、「ゆっくり考え、すばやく動く」方式で進められることはない。「すばやく考え、ゆっくり動く」方式が一般的だ。そしてそれがどういう結果を生むかは、大型プロジェクトの実績にはっきり表れている。

カリフォルニア高速鉄道の話を紹介しよう。カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事が有権者の承認を得て建設が開始した時点で、「計画」のように見える文書や数字はたくさんあった。

だが輸送プロジェクトの専門家で、州議会が招集したカリフォルニア高速鉄道内部検討グループの座長を務めるルイス・トンプソンは、プロジェクトの実行開始時にあったのは、せいぜい「ビジョン」や「願望」に過ぎなかったと指摘する。実行フェーズに入ったとたん問題が噴出し、工事が遅々として進まなくなったのも無理はない。