お金の心配よりもはるかに大切なこと

「言っていることはわかった。けれど先立つものがない」
「人生は定年してからも長い。だから老後生活に必要な資金を、今のうちに稼いでおかないと」

そんなふうにお金の心配をする人がいるかもしれません。

しかし、50代ともなれば、余剰資金は多少なりともあるはずです。

もとより、お金は天国まで持って行けません。

その手前、70~80代になったとき、いくら巨万の富があったとしても、それを使って楽しむ体力や気力はどれくらい残っているでしょうか?

たとえば、同じヨーロッパを旅するにしても、50代ならばレンタカーを借りてドイツ・バイエルンのアウトバーンを疾走し、フランス・パリで思う存分ワインとフランス料理を楽しみ、坂の多いスペイン・バルセロナの町並みを上り下りしながら街歩きしたりできるでしょう。

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興味の赴くまま、やりたいことがまだまだ存分にできます。

しかし、同じ料金をかけたヨーロッパ旅行のタイミングが、80歳であったらどうでしょう? 速度無制限のアウトバーンを運転するのは好奇心より恐怖心が先立ちます。疾走する醍醐味やスリルはもう味わうことはできません。

パリで良さそうなビストロに立ち寄っておすすめメニューを頼んでも、脂がたっぷり乗ったグリルやソテーは胃もたれして楽しめません。

バルセロナの坂道をそぞろ歩きたくても、膝や腰が弱っていたら、喜びよりも苦痛が勝りそうです。

体力や意欲、感性は、人生の大切なリソース

体力や活力が残っていなければ、時間も好奇心も満たせないかもしれない。

すばらしい異国を旅したとしても、すばらしい体験ができないかもしれない。

そして、思うのです。

「もっと早く、旅に出ていたなら……」

体力や意欲、感性は、人生の大切なリソースです。

同じお金を使うのでも、いつ使うかで、その価値は大きく変わってきます。

最大限にそれら人生のリソースを使える絶好のタイミングが、多くの社会経験や知識があり、多少なりとも自由に使えるお金を持っている50代なのです。

50代のうちにお金や体力、意欲や感性をどう使って、何を得るか。

それこそが、本当にやりたいことをやり、なりたい自分になる人生を送るコツであり、定年後の人生を豊かにしてくれる、実りの多い自分への投資なのです。

私はかれこれ30年以上も65歳以上の高齢者を専門に精神科医をしてきました。

たくさんの高齢者の方々に会ってきたからこそ、確信して言えるのが、「満足そうな老後、幸せそうな定年後を歩んでいる人のかなりの部分が、50代からその準備をしたり、やりたいことを始めたりしていた」ということです。