日系他社でこの仕事をしている企業はない
有田は「ありがたかったです」とうなずいた。
「水戸支店にはわずかな期間しかいなかった。しかもかなり以前のことです。知っている人間はいない。それでも紹介してくれました。ほんとうにありがたい」
「水戸支店の後、僕は本社のウェルスマネジメント部にいました。全国にある支店のお客さま、富裕層のお客さまに対して、営業員と一緒に提案をする仕事。株とか債券の提案ではなく、相続税、事業承継のソリューションが多かった。その後、営業企画部です。これはスタッフ部門で3年間、ニューヨークにも駐在しました。
シンガポールに来てWCSの仕事をやって、勉強になりました。日本の大和証券にとっては顧客の富裕層が国外に移住してしまうのは本質的には困ります。ですが、アジアであればWCSが受け皿になります。
お客さまがある国内支店から他の支店に移ったみたいなものです。結果的にはWCSがあってよかったのです。
もうひとつ大事なのはシンガポールにいる日系の競合他社はこうした仕事をしていないこと。競合他社はローカル採用の営業員がローカルのお客さまを相手にしています。中国出身の営業員であれば中国人のお客さま、シンガポーリアンの営業員であればシンガポーリアンのお客さまを相手にする。
しかも、うちはそれをやっていません。他社が気づいてこれから参入してきたとしても、マーケットが大きくないからなかなか結果を出すのは難しいでしょう」
預かり資産1兆円を達成した「おもてなし営業」
大和証券シンガポールのWCSは変わった。それまでの富裕層セクションに所属していたのは英語が上手な国際派だった。彼らが個々の努力で資産家に対してサービスを行っていた。組織とはいえせいぜい3、4人であり、ヘッドは欧米系プライベートバンクからスカウトしてきた人材だった。
ヘッドがやっていたのは欧米系のやり方を真似たサービスだった。しかも、国内支店からの応援はなかった。それぞれが孤立した営業組織だった。モチベーションは上がらず、業績もなかなか伸びていかなかった。
現在、副社長の岡裕則と会長の中田誠司はそれを変えた。ひとことで言えば「勝てる営業組織」にした。
利益を追求する、売り上げを追求する組織から、独自の理念を実現する組織に変えたのである。独自の理念とはおもてなしだ。移住してきた日本人資産家向けに、おもてなしスピリットで徹底的にサービスする。おもてなしを徹底させるために国内からモチベーションの高い営業員を呼んできた。英語力よりも顧客とのコミュニケーション力を重要視したのである。