即完した「卒論執筆パック」
さらに掘り下げると、卒論を書く大学生の苦しみの多くは「早く取り組まないといけないのに諸々の理由で進捗を生めていない」という葛藤から来ています。つまり、「卒論の進捗がない罪悪感から逃れたい」というインサイトを抱いているのです。であれば、「ちゃんと卒論に取り組む時間は確保できているから大丈夫」と思えるサービスをつくればいいのではないか?
そう考えて企画したのが「卒論執筆パック」という宿泊プランでした。
「卒論執筆パック」とは、かつて文豪たちが湯河原の温泉旅館で逗留しながら缶詰になって執筆に没頭した歴史になぞらえて、大学生たちが卒業論文の執筆作業に専念できるようにした宿泊体験です。
大学生のお財布にも優しいように、学割ということで1泊1万円程度のリーズナブルな価格に設定。3食付きかつコーヒー・紅茶飲み放題で作業に集中できる環境を用意したうえ、希望に応じてスタッフが編集者に扮して進捗を確認したり、原稿の感想をお伝えしたりするなど、ダラけないように牽制するサービスを設けたところ、このプランの告知ツイートは瞬く間に拡散され、初回に用意した40枠がその日のうちに完売したのです。(…)
年間の利益を3600万円も押し上げた
嬉しい誤算で、「卒論執筆パック」は、大学生以外の方々からも大きな反響がありました。
熱烈なリクエストの声を受けて、一般の方も対象とした「大人の原稿執筆パック」というプランをリリースしたところ、卒論執筆パックをはるかに上回る数の予約が押し寄せました。
これらのシリーズによって、それまで5%しかなかった直接予約の割合はなんと1年で80%(前年比16倍)にまで急上昇。たった11室の旅館にもかかわらず、年間の利益を3600万円も押し上げ、業績を急成長させることができたのです。
その後、今日に至るまで原稿執筆パックはこの温泉旅館の売上を支えるヒット商品となっています。
たとえ不利な条件下であったとしても、ゲストのインサイトを正しく捉えることで、ゲームチェンジを生み出せる可能性は十分にあるのです。