「習近平の肝いり政策」に急ブレーキがかかり…
ところが新型都市化政策に伴う旧市街地改造と立ち退き金の提供は2017年を境に急減する。“習近平総書記の政策”を錦の御旗に、地方政府が乱開発を進めたことを中央政府が危険視したため急ブレーキをかけたとされる。
これではしごを外されたのが、恒大集団をはじめとする急拡大企業だ。「高負債、高レバレッジ、高回転」の仕組みはネズミ講のようなもので、規模が拡大し続けなければ継続できない。前述のグラフを見ても2018年には債務拡大のペースが止まっている。
2021年から再び債務が爆増しているが、これは「未払いにブチぎれた下請け事業者やサプライヤーが仕事を放棄して建設工事がストップ」する流れが広がり、前払い金を受け取ったものの引き渡しできていない不動産が増加したためだ。
中国の新築住宅は予約販売制だ。何も手を着けていない状態の物件を販売するのはさすがにダメということで、建物の最頂部まで完成したら販売開始して良いという決まりになっている。そのため突貫工事で一番上まで作るものの、その後は急ぐ動機がないために放置。下手すると壁も作らずに野放しにされていることも多い。
というわけで、新型都市化政策がキーだったことを考えると、粉飾決算は今回指摘された2019年、2020年だけではなく、2018年の売り上げもごまかしていた可能性もあるのではないか。ともかく規模を拡大しないと生きていけないため、売れなくても新たな建設プロジェクトを始め、下請け業者への支払いを遅らせに遅らせまくって当座をしのいできたわけだ。
恒大集団は新型都市化政策によって企業規模を躍進させた代表的企業の一つ。しかし、ほかにも同じく債務危機に陥っている碧桂園(カントリーガーデン)や融創中国(サナック・チャイナ)など同様のモデルを採用していた企業は多い。これらの企業は2021年半ばぐらいまでは業績好調が続いたとの決算を出しているが、果たして本当なのか。恒大集団ほど豪快なごまかしかどうかはともかくとして、他の不動産企業にも疑惑の目は向けられている。
「恒大集団のEV参入」とはなんだったのか
これまで、中国の不動産危機は2020年の不動産規制が出発点とみられてきた。しかし、粉飾決算によって2018年、遅くとも2019年には変調していたことが明らかとなった。専門家にとってもサプライズだ。
そうすると、伝説となった「恒大集団のEV(電気自動車)参入」もまた別の視点で見えてくる。
恒大集団の創業者、許家印(シュー・ジャーイン)は2019年にEV事業参入を発表した。不動産デベロッパーが門外漢の自動車をどうやって作るのか、誰もが不思議に思ったが、許氏は発表会で驚きの戦略を明かしている。