摩訶不思議な「一強」体制が出来上がり
そして3つめは、2月28日、裏金事件をめぐる政治倫理審査会に自ら出席すると述べたことである。
「ぜひ志のある議員に政倫審をはじめ、あらゆる場で説明責任を果たしてもらいたい」
この言葉、とりわけ「志のある議員に……」のくだりは、政治倫理審査会への出席を逡巡していた安倍派や二階派の幹部に、「出席しなければ、有権者に『志がない』と見られかねない」と思わせるには十分なインパクトがあったに相違ない。
このように、党内基盤が強くなかった岸田首相は、「まさか、そんなことはしないだろう」という予想を次々と覆す手法で、内閣支持率は超低空飛行なのに「岸田降ろし」には至らないという摩訶不思議な「一強」体制の構築に成功したのである。
裏金議員の処分で安倍派が完全に崩壊
しかし、岸田首相の成功はここまでだ。
4月4日、自民党が決定した安倍派と二階派39人の議員に対する処分は、以下の2つの点で大きな禍根を残した。
(1)安倍派元幹部の失墜と安倍派議員からの不満増大
(2)岸田首相(自民党総裁)にすべて背負ってもらうべき、との声の拡がり
まず、曲がりなりにも岸田政権を支えてきた安倍派が、処分によって完全に崩壊したことはマイナスに作用する。
すでに報道されているとおり、安倍派の座長を務めてきた塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参議院幹事長が。「除名」の次に重い「離党勧告」、下村博文元文部科学省と西村康稔前済産業相が3番目に重い「党員資格停止(1年)」、そして、高木毅前国対委員長も「党役員資格停止(半年)」、萩生田光一前政調会長と松野博一前官房長官、それに二階派の武田良太元総務相ら9人は「党の役職停止(1年)」で決着した。
「これは安倍派いじめの権力闘争」「処分がマスメディアの報道を受けて重くなっている」「その基準も不明確」との声は従来からあったが、処分が決まった後、塩谷氏が議員事務所で記者団に語った言葉が、全ての不満を表している。
「今回、(還流に)関わった派閥の関係のそれぞれの立場の人は、同じように処分を受けるということが公平な考え方だと思っている」
普段は穏やかな塩谷氏の言葉は、処分の対象外となった岸田首相への強い憤りを如実に物語っているように思えてならない。