調査捕鯨より商業捕鯨の方が捕獲数が少ない

――経営コンサルタントとして活躍していた所さんの目には、捕鯨業界はどのように映っていたのでしょう。

いまから10年ほど前までクジラ肉は1キロあたり1200円ほどで取引されていました。しかし私が社長に就任した2020年の段階で、711円まで価格が落ち込んでいた。その点で言えば、クジラ肉は、市場からそっぽを向かれていたと言えます。

よく知られた話ですが、商業捕鯨全盛だった1960年代までは、国民1人当たりの食肉供給量で、鯨は、牛、豚、鶏を上回っていました。しかし現在のクジラ肉の供給量は、2500トンほど。一方で、牛肉は、約80万トン。豚肉は約160万トン。鳥肉は約170万トン。捕鯨は、現代に必要のない過去の産業。日本に暮らすみなさんがそう受け止めていると考えていました。

その約2500トンという数字も、調査捕鯨時代の捕獲枠です。商業捕鯨に移行後は、1500トンから1600トンにまで減りました。当時、水産庁の担当者からその話を聞き、驚きました。調査捕鯨よりも、捕獲数が少ない商業捕鯨なんて、ありえるのか、と。

にもかかわらず、これまで調査捕鯨を応援してくれた政治家や財界人の方たちは「商業捕鯨を勝ち取ったんだから、よかったじゃないか」と捕鯨に対する関心を失っているようにも見えました。

それに、かつてクジラ肉を食べていた人も高齢になっている。彼らはノスタルジーで捕鯨を応援して、クジラ肉を食べてくれていた。それでは、産業としての捕鯨は先細る一方です。ましてや商業捕鯨は続けられない。

撮影=プレジデントオンライン編集部
共同船舶の所社長

感じ取った国からのメッセージ

――そんな状況で新たな母船を造るというのは現実的ではない気がします。

私が社長に就任する前、水産庁などを中心にした「新母船建造検討委員会」というプロジェクトがありました。そこで出てきた建造費用の見積もりが110億円から150億円。水産庁からの補助金があれば、建造も可能でしょう。

しかし国の調査捕鯨に対して、商業捕鯨は共同船舶という民間企業の事業です。

捕鯨母船建造に補助金はあてにできなかった。しかも商業捕鯨初年度に7億1500万円の赤字を計上しました。これでは、新母船建造なんて夢のまた夢だと感じました。

だから、私は110億円から150億円という数字を見たとき、国は共同船舶に母船式捕鯨をあきらめさせて沖合から撤退しろ、と暗に仄めかしているのか、とさえ思いました。