中国製オーダースーツで一発逆転を狙う
営業部長の辞表を受け取り、ナンバー2を引き上げ、1カ月程度佐田さんが貼り付いて指導する。もう大丈夫と手放すと次は経理部長から辞表、というように、同じことを5回繰り返した。
改革に反対した幹部の言い分ももっともだ。小売りは出店する時点で費用が出る。物件の保証金や販売員の賃金、また誘客するための広告費もバカにならない。そこを頼み込んで保証金を分割払いにしてもらい、販売員も社内の従業員をどうにか配置し、宣伝広告費もオープンセールで支払うからと頼み込んだ。
そして会社に戻ってから5カ月後の2011年10月14日、会社再建をかけた新宿店がオープンした。
「新宿駅前を選んだのは、乗降客数世界一の駅だからです。目の届く範囲に大手既製スーツ専門店もあるので、そこからこぼれた顧客も狙えるでしょう」
当時はフルオーダーといえば日本製、相場は10万円程度のところ、オープンセールと称して「中国製スーツにスペアスラックスをつけて1万9800円」を目玉商品に据えた。初回の3週間セールだけで250着ほどの注文があり、2回のオープンセールで合計約800万円の売り上げを記録。その後も順調に売り上げを伸ばし、2012年7月期の決算では前年度を1億円上回る、18億円の売り上げを達成した。
中国製の誤解を解きたい、でも金がない…
今後、小売りを事業の主軸として会社を立て直すためには、会社の知名度と信用度を上げなければならない。
中国製にはどうしても、「安かろう、悪かろう」のイメージがつきまとう。取引先には実物を見るまでもないと門前払いされた。お試し価格1万9800円からと売り出しても、「嘘だ」「詐欺だ」と叩かれることもあった。
品質がよければ、誰だって価格は安い方がいいはずなのだ。うまくいけば、今まで価格を理由に既製スーツに流れていた客層をも取り込めるかもしれないのに。
「知名度・信用度を得たくても、大々的に広告を打つお金はありません。とにかく新聞やメディアへの売り込みから有名人への声かけなど、手段を選ばずやってみて、たどり着いたのがYouTubeだったんです」
誰でも無料で動画をアップロードできるYouTubeで、中国製オーダースーツの品質を証明するコンテンツを作る。動画がバズれば、広告費用をかけることなく知名度と信用度を上げることができるかもしれない。
問題は、どうやって動画をバズらせるか。そこで社員から最初に上がった案が、「オーダースーツで富士登山」だったのだ。自分が出るのかと渋った佐田さんを、「社長がやるからこそおもしろい」と社員が後押し。常に社員に対して「チャレンジ・スピリット」の重要性を説いていただけに、やらないとは言えなかった。
こうしてスーツでチャレンジ企画がスタート。富士山、スキージャンプ、東京マラソンと無茶を重ねるうちに佐田さん本人に注目が集まるようになり、テレビ番組やWeb記事などで徐々に取り上げられるようになっていった。YouTubeを見てやってきた若者が店舗を訪れるようになり、客層も、新規の客も着実に増えていった。