中堅私大出身の同期に負けてしまう
しかも、融資を希望する顧客すべてにお金を貸せるわけではなく、どうしても融資不可の案件が一定の割合で出てくる。それを伝えた顧客から「なんで貸してくれないんや。こっちは首をつるしかないほど切羽詰まっているんだから、貸してくれてもいいやないか」と詰め寄られ、暴言を吐かれたことも、この男性の判断を遅らせる一因になったようだ。
先輩に相談したところ、「そういう客はどこの支店にもいる。本来は貸せないのに無理して貸したら、背任になりかねない。だから、融資の条件を満たしていなくて貸せない相手には、はっきり伝えるべきだ。場数を踏んで慣れていくしかない」と助言されたそうで、至極もっともだと思う。だが、この男性は、また暴言を浴びせられるのではないかという不安から、融資が可能か不可かの判断をなかなか下せなくなってしまったのだ。
1カ月に誰が何件の融資案件をこなしたかは、毎月グラフで示されるのだが、いつもこの男性が一番少なかった。しかも、自分より多くの融資案件をこなしていた同期の男性が、この男性の母校より偏差値も知名度も低い中堅私大の出身ということも、彼のプライドをひどく傷つけたようだ。
上司からも見捨てられ、花形部署から異動
ちょうどこの頃、直属の上司である課長から、この男性について「いい大学を出ているのに、あまり仕事ができない。お客様と話すのが苦手みたいで、融資の件数をこなせない。だからといって、厳しく叱責したり発破をかけたりすると、本人のプライドを傷つけかねない。ややこしそうな案件はできるだけ回さないようにしているが、そうすると他の行員から不満が出てくるし、どうしたらいいでしょうか」と相談を受けた。
かなり寛大な上司という印象を受けたので、「元々能力はあるはずだから、しばらく見守るしかないですね」と答えておいた。
しかし、年単位で見守っても、この男性の顧客対応力が向上することも、こなせる融資案件の数が増えることもなかった。そのため、さすがに寛大な上司も業を煮やしたのか、「判断を伴う業務には向いていないのかもしれない。だから、判断を伴わない業務に回したほうがいいのではないか」と言い出し、上層部に相談した。
この男性は、花形の融資課での勤務を続けることを希望したようだ。だが、こなせる案件の数があまりにも少なく、同僚から不満の声があがっていたことも考慮したのか、契約書を作成する部署に異動させる決定を上層部は下した。