2006年、グループ会社会長だった四代目が電撃解任
2006年、セイコーインスツル(旧第二精工舎)は筆頭株主の会長・服部純市(旧名・純一で謙太郎の子)を解任した。
解任された純市は、セイコーホールディングス(旧服部時計店)の名誉会長・服部禮次郎(純市にとって叔父)、セイコーウォッチ社長・服部真二(純市にとって弟)、セイコーインスツル社長・新保雅文が解任劇を仕組んだとしてマスコミに不満をぶちまけ、親族である禮次郎・真二を名誉毀損で訴えると息巻いた。これに対し、セイコーインスツルは純市が在任中に不明朗な会計処理があったと、約1億円の損害賠償請求を東京地方裁判所に起こした。
さらに2010年には、その禮次郎、真二が敵味方に分かれて再び解任劇を演じる(ちなみに真二は、叔父・禮次郎の養子になっている)。
2010年4月30日、セイコーホールディングス役員会は社長・村野晃一を解任し、副社長の真二が社長に就任。さらに同日、100%出資の販売子会社・和光の臨時株主総会を開き、真二はセイコーホールディングス社長として和光の社長兼会長・禮次郎、および専務・鵜浦典子を解任したのである。
オーナー企業ではなぜ「御家騒動」が頻発するのか
鵜浦典子は禮次郎の秘書から抜擢されたが、パワーハラスメントで週刊誌をにぎわしたため、心ある役員たちが真二と結託し、鵜浦と禮次郎を解任すべくクーデターを起こしたといわれている。
もはや親子でも兄弟でも容赦なく解任するという仁義なき同族闘争が展開し、世間を騒がせた。
なぜ「御家騒動」が頻発するかと言えば、創業から150年を経た現在もいまだに服部一族が大株主として君臨し、トップを世襲しているからだろう。五代目社長・禮次郎の妻・悦子が全体の8.7%、現会長の真二が5.5%、真二の実弟・秀生が3.9%を保有している。
自動車や家電メーカーは大規模な工場を建設しなければならないので、どうしても資本金が巨額となり、個人では大株主の座を維持できなくなる。これに対して、流通、建設、製薬業などはそこまで巨額な資本金を必要としないことから、大株主の座を維持しやすく、世襲が続きやすい。
ただし、同族会社がすべて御家騒動を起こしているわけではない。一度、御家騒動が起きてしまうと、「また同じような手で更迭しよう」などという発想が生まれてしまうのかもしれない。
ちなみに服部一郎の一人娘・聡子は、現天皇の有力なお后候補だった。もし皇太子妃になっていたら、服部一族は自重して御家騒動なんか起こさなかっただろう。人生なんてちょっとしたことで変わってしまうっていうことだ。
服部家の歴史は、オーナー企業や同族経営の難しさを感じさせる。現在、セイコーグループを率いるのは、金太郎の直系のひ孫であり、2012年にCEOとなった十代目・服部真二会長である。セイコーの今後はどうなるのだろうか。