女王アリの「ザ! ザ! ザ!」の恐ろしい機能
そのほか、幼虫のお世話をする時の「ギュンギュン」や、キノコ畑の上で発する「トトトトトトトト」といった警戒音など、聞いてもらえると、その違いは一耳瞭然だ(本書『働かないアリ 過労死するアリ』P247に掲載しているQRコードから聞くことができます)。
録音した中でも非常に印象深かったのが、女王アリの発する音だ。ハキリアリの女王は1万5000種いるアリの中でも最大サイズ。女王アリと働きアリでは、音質も声の大きさもまったく違う。女王アリの音は周波数に幅があり、高音から低音まで出るし音も大きい。また、言葉のバリエーションはないけれど、メッセージ性は高い。
そして女王は時に「ザ! ザ! ザ!」と迫力のある音を発する。そしてその音には、ちょっと恐ろしい機能が備わっている。
働きアリをその場にフリーズさせてしまうのだ。
卵を産む女王アリは長生きしなくてはいけない
ハキリアリだけでなく、女王アリは敵に襲われるなど危機的状況に陥った時、まず自分だけが真っ先に逃げる。働きアリにはその場にとどまり戦ってもらわないといけない。特にハキリアリは女王が音でそのことを働きアリに伝えていると考えている。
「女王アリはなんて卑怯なんだ!」と思うかもしれないが、卵を産む女王アリが逃げ延びることができなければ、次世代が生み出せず、働きアリの存在意義も著しく低下してしまう。
ハキリアリの働きアリは卵巣が完全に消失してしまっているため、是が非でも女王アリには長生きしてもらい、卵をたくさん産んでもらうしかない。
人間の常識からすると残酷に見えるかもしれない、この極限状態での女王アリと働きアリの音声コミュニケーションには、「真社会性」昆虫の真髄が詰まっているとも言える。