本人が事態の深刻さを理解していない危うさ

ひとたび「こうのとりのゆりかご」に預け入れられた赤ちゃんは、いったん児童相談所に保護される。このケースでは、女性が両親に打ち明け、両親と女性とで育てることになった。児相と女性の地元の保健福祉行政が連携して家庭に戻るまでのスケジュールを決め、赤ちゃんは3カ月後に戻った。

「女性には専門家によるトラウマケアが必要でしたし、赤ちゃんを家に迎えてからの保健師さんなどの定期的な訪問も欠かせないものだったと思います。そのあたりの計画を詰めようにも、何よりご本人がことの深刻さを理解できていませんでした。その危うさがあったので、こんなに早くおうちに戻って大丈夫だっただろうかと、今も心配しています」

翻って、三重の事件では児相は2年をかけて慎重に調整を進めたはずだった。にもかかわらず、三女は2年2カ月後に命を絶たれてしまった。このことは、「こうのとりのゆりかご」に預け入れる母親の背景を認識して支援することの難しさを指し示した。(各行政機関への取材は週刊文春WOMANにて詳報

写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです

苦しい気持ちを「言葉にするのが苦手」

「こうのとりのゆりかご」に預け入れるケースの中には、家族関係や職業などの情報の上ではいわゆる「健全」な家族状況ということもある。表面上は恵まれた家族環境にあり、ともすれば衝動的に見える預け入れのケースも、背景には複雑な家族関係の問題がある。そして最大のハードルは、女性がそれらに対する苦しみを「言葉にするのが苦手」なことだと蓮田さんはいう。

「自分の気持ちを伝えるのが苦手、これは、『ゆりかご』に預け入れる女性に共通して言えることだと思います。そんな彼女たちが、気をとり直して自分で育てたいと決心されたとき、『ゆりかご』からお母さんのもとに帰れてよかったね、と赤ちゃんのことを喜ぶのと同じくらい、『ゆりかご』に預け入れるまでに追い込まれた女性の孤立や心身の傷を想像する必要があると思います。

お母さんの心身のケアを尽くして、彼女が『ゆりかご』に預け入れなくてはならなかった問題を取り除く工夫をしない限り、赤ちゃんがせっかくお母さんのもとに戻っても、安全な環境で育つことが危うくなります。このことをどうか知っていただきたいです」