「何もしなくても不労収入が手に入る」

同協会は、今回の事件に関する説明資料のなかで、「トケマッチのビジネスモデル」を「時計オーナーは何もしなくても不労収入が手に入る形となっています」と書いている。働かずにお金が得られるのは持続可能か、そんな疑問を向けていたら、認証マークを出さなかったのではないか。

とはいえ、協会の姿勢や責任を追及したいわけではない。働かざる者、食うべからず、と説教したいわけでもない。

それよりも、この事件が昨今の世相を象徴しているところに関心があり、それこそが、先に挙げたマスメディアが被害者に同情していない(ように見える)理由だと考えられるのである。

マスメディアには、被害者は自業自得だ、との論調もなければ、自己責任だとする議論も、ほとんどない。先に述べたように、運営会社の元社長らが、あらかじめ詐欺や業務上横領を企てていたのではないか、との点を中心に報じられている。被害者の声も多く紹介されており、信頼して預けたのに騙された人たち、との位置づけと言えよう。

しかしこの事件は、昨今の株式市場や不動産価格の高騰に伴う投資ブームだけではなく、ポケモンカードの盗難・強盗事件にも通じているのではないか。

写真=時事通信フォト
高値が付いたトレーディングカード「ポケモンカード」=2022年12月14日、東京都千代田区

高級時計は、なぜ「高級」なのか

何かを自分のものにしたい、そんな情熱よりも先に、手に入れれば「不労収入が手に入る」のではないか、との下心が見えるからである。愛や衝動ではなく、お金のために手元に置きたいと考えているように映るからである。オタクでもなければ、趣味で集めているわけでもない。値段の高さ=価値の高さ、と思い込み、歴史も蘊蓄も、愛好家同士の「つながり」もないままに、ただただ目先の利益のために所有しようとしていると思われるからである。

ロレックスにせよレアカードにせよ、あるいは、ナイキのスニーカーにせよ、どうしても自分のものにしたい、といった、やむにやまれぬ情動に突き動かされる対象は、もはや、結果として付いてくるだけのお金を目的とした投機の道具になっている。手段は金で目的が所有、のはずが、手段は所有で目的がお金、と逆立ちしているのである。

珍しいだけで重宝されるために、それ自体の価値を置き去りにして、お金=数字だけで測られる。トケマッチ事件は、手段と目的を転倒しがちな、いまの世相を表している。おそらくは、ここに、今回のトケマッチ事件の被害者に対して、マスメディアをはじめ、私たちのなかに、完全には同情できない、煮え切らない思いが隠れているのではないか。

いまいちど、高級時計は、なぜ「高級」なのか。その根本的な意味に立ち戻って考える。そのきっかけに立ち戻れるなら、被害者への同情は、よりリアリティーを増すのかもしれない。

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