資産価値=投資対象としてのロレックス

たしかに、被害者は多くいる。

たとえば、「ロレックス3本、600万円相当を預けていた男性」の悲痛な叫びが、FNNプライムオンラインで紹介されている。大阪MBS NEWSの動画では、高級時計5本分、合計3800万円相当を預けていたのに、「入金止まり連絡も取れないと怒る利用者の声」が公開されている。

運営会社のサイトによれば2023年8月時点で「時計預託本数」は1500本に達していた以上、被害者の数は、現時点で警察に被害届が受理された人数(173人)にとどまらないだろうし、被害額にいたっては途方もない。10億円の単位では済まないのではないか。

ロレックスをはじめとする被害品は、大量生産されていないからこそ価値が高いだけではなく、誰でも買えるわけでもない。「ロレックスマラソン」なることばが広まるほどに、その道のりは長いからである。マラソンというだけあって、定価で手に入れるために正規の販売店をいくつも回らなければならない。

3年ほど前、「朝日新聞デジタル」が、この行為について取材した上で、「お店側も同一モデルの購入制限など厳しいルールを設けており」といった購入者による証言や、専門誌『パワーウオッチ』と『ロービート』の総編集長の菊地吉正氏による、「ロレックス好きだけでなく資産価値に目をつけた人が増えた」との見解を紹介している。

トケマッチが始まったのは、まさにこの記事が出たころなのである。資産価値=投資対象としてのロレックスへの関心の高まりに乗ったのである。

高級腕時計シェアリングサービス「トケマッチ」サービス終了を知らせる運営会社のホームページ

魚心あれば水心であり、その心は、すなわち時計で儲けたい、という下心ではないか。こうした感情が、マスメディアの煮え切らない報道の背後にあるのではないか。

代表の言葉から「時計への愛」は見えない

運営会社ネオリバースのウェブサイトには、小湊敬済こと福原敬済容疑者(42)の「代表挨拶」に、次のように書かれている。

私たちのポリシーは「人と人を繋ぐ(つなぐ)」ということです。

借りたい人と貸したい人をつなぐ、買いたい人と売りたい人をつなぐ、そんな人同士の「つながり」を最も大事にしたいと考えております。

それは、契約内での「つながり」にとどまらず、お互いが満足し、幸せになれるような関係へと発展させていきたい、という願いがございます。

ありきたりに言えばWin-Winの関係であり、ここには時計への愛はない。好きだから、手に入れたいから、大切にしたいから、といった、時計愛好家との「つながり」は見えない。

それよりも、「買いたい人と売りたい人をつなぐ」、と、あけすけに言う。「シェアリングエコノミー認証マーク」を得ていながらも、いや、得ているからこそ、率直に「お互いが満足」する=お金を儲けられる関係を前に出している。シェアリングエコノミー協会の掲げる「Co-Society ~シェア(共助・共有・共創)による持続可能な共生社会~」というビジョンは、どこに行ったのか。