膨大かつ良質コレクションを見るためカタール王子がわざわざ来日

古代への興味が蘇ったのは、34歳のときに旅先でたまたま訪れた下田の古美術店での古代遺物との出会いだった。

「縄文土器や弥生式土器が売られていて、一般人でも手に入れることができることに驚きました。後日、東京・京橋に古代遺物の専門店があることがわかり勾玉まがたまを見に行ったら、飾ってあったエジプトのブロンズ像が目に入って、大英博物館に陳列されていたようなエジプトの遺物が自分でも手に入れられるのかと興奮しました」

その後、シャブティ(埋葬用の小像)を購入(価格は失念したとのこと)したことから怒涛どとうのコレクター人生が始まった。集めに集めて、現在は、気づけばコレクションは2000点をゆうに超える。

それにかかった総額はおそらく億円単位だが、これに関して本人は“沈黙”。ただ、菊川さんの名はエジプト遺物のコレクターとして世界的に知られ、「僕のコレクションを見るために、9年前にカタールの王子(編集部註:Sheikh Saoud Al-Thani氏)がわざわざプライベートジェットで来日しました」という。それくらい世界的な規模感とクオリティということだ。ちなみにこの来日、ベルギーの古美術商を通して連絡が入り、事前に秘書がカタールから下見にやってきたという。

「王子が来日した時は国際親善だと思って、東日本橋の老舗の国旗屋さんまで行ってカタールの旗を買ってきました。日本の国旗とクロスさせてお迎えしました」

カタール王子のSheikh Saoud Al-Thani氏と(写真=本人提供)

コレクションしたモノは、近代のエジプト考古学の基礎を作ったロンドンのピートリのコレクションを検索できるようにしたインターネットサービスを参考にリサーチしている。ここには考古学的価値の高い時代や発掘場所のはっきりした小さなものや断片が約8万点載っている。それまでエジプト学を学んだことはなかったが、新規で手に入れた遺物の背景を調べるたびに新しい発見が増え、ジグゾーパズルの謎が解けるように古代エジプトへの理解が深まっていったという。

「最初の頃は偽物を買ってしまったこともありました。でも大学院時代に化学分析などもしたこともあり、購入したガラスの偽物2点を発見した経験も。普通は、返品は受け付けないのですが、分析結果をもとに抗議して、逆に大きなミイラマスクを手に入れました」

この世界は、投資の世界と同じように、高く買う人に情報が流れる仕組みだから、「本物を保証してくれる古美術商から高く買うんです」と菊川さん。だから偽物だとわかると返品させてもらうし、先に買わないと学びはないそうだ。

とはいえ、なぜ大人になってこんなにも没頭したのか。