20年ぶりの同居

約20年の結婚生活の間に老後資金を貯めていた白馬さんは、これまでの自分の生活スタイルが崩される恐れがあるうえ、娯楽施設が何もない田舎で両親との同居はしたくなかったため、実家には戻らず、中古マンションを購入しようと考えていた。

ところが、その計画を聞いた父親は、「お前はバカか。中古マンションなんてばかげてる」と言い、猛反対。白馬さんが購入しようとしていたマンションを管理する不動産屋へ勝手に電話し、「そのマンションの資産価値はどうなんだ? 地震対策はちゃんとしているのか? 住人の年齢層はどうなんだ?」などと問い合わせ、白馬さんが購入を躊躇うような情報を引き出し、実家へ帰ってくるよう誘導。

結局、父親の策略にはまり、実家に帰ることにした。

ところが、コロナ禍になってからは電話のみで、実家には帰っていなかった白馬さんは、約2年ぶりの実家に仰天する。家の中も庭もゴミで埋め尽くされ、ゴミ屋敷状態になっていたからだ。

DIYが趣味の父親(当時84歳)は木材を買っては使わず放置。部屋のみならず廊下まで木材で埋め尽くされていた。もともと母親(当時83歳)の部屋だった場所には、缶詰、食器用洗剤、衣料用洗剤などをケース買いしたものが山積みで足の踏み場もない。

ダイニングルームの床、キッチンの収納庫、食器棚の上、パントリーの棚すべてに大量の新品のフライパンや鍋が置かれており、その数合計50個以上。両親2人暮らしなのに大型冷蔵庫が2台、冷凍庫が1台あり、5年前の日付が書かれた食材がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

キッチンやダイニングには、肉や魚が入っていた空のトレイが100トレイ以上、空の2リットルのペットボトルが10本以上、空の段ボールが10個以上積まれており、食事をするスペースもない。

旦木瑞穂『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)

父親は、斜めになったまま動かない壊れた電動ベッドをリビングに置いて寝起きしていたようだが、黄ばんだ寝具からはひどい臭いがしていた。

浴室は換気扇が壊れており、壁も床も天井もカビで真っ黒なうえ、触るとぬるぬるする。庭には放置されたプランター、肥料、ゴミ。庭木は伸び放題、雑草は生え放題。

白馬さんは、きれい好きで常に家も庭もピカピカにしていた母親の変貌ぶりに戸惑った。

「私が戻るも何も、私が生活するスペースがないだろうと驚愕しました。父は昔から、自分が好きなことだけやって放置の人。母が元気な頃は母が後始末をしていましたが、約2年ぶりに会った母は、ぼんやりしており反応が薄く、両親とも何週間も入浴していないにもかかわらず、それを普通じゃないと認識していない様子でした」

「父はともかく、母を放っておけない!」と思った白馬さんは、両親が使っておらず、被害が少ない2階とキッチン以外の水周りをリフォームし、自分の生活スペースを作ることから取りかかった。(以下、後編へ続く)

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