小選挙区制では党執行部の立場が強くなりすぎる
かつて、衆議院が一選挙区から複数人が選ばれる中選挙区制だった時代は、例えば5人区では候補者は20%の得票率で当選できました。同じ選挙区から自民党の候補者が複数立候補することも可能だったため、自民党内も一色に塗りつぶされることはなく、党内でも多様な意見が自由闊達に交わされていたものです。しかし、最大で50%もの得票率が必要と言われる現在の小選挙区制になってからというもの、候補者は自由な議論を封じられる傾向があり、あれもこれも実現しますという歳入を度外視したバラマキに陥りやすくなるという弊害があるように思います。
というのも、各党が一選挙区に一名しか公認しない小選挙区制では、公認権を握る党執行部の立場が俄然強くなるからです。なんとしても選挙に勝ちたいと考える党執行部が、有権者に受けが良いと思われる安易なバラマキを行い、国債発行に走った場合、候補者個人としてはなかなか反対意見を出しづらい雰囲気があるのです。このため、かつての自民党税調(税制調査会)のような財政規律に対する強い主張が出てこないように思います。自民党では、総裁をはじめとした執行部に、財政規律の大切さを、あらためて認識してもらう必要がありそうです。
内閣人事局制度の発足による影響
担当医である官僚機構からも、率直な意見具申が少なくなったのは、時代の変化が大きいのでしょうか。国債発行のなかった時代は、公的部門に資金が有り余っていました。官僚機構の発言力は公的資金の歳出抑制にあったと思います。国債発行という抜け道を政治家に握られた無力感は大きなものがあるでしょう。
さらに、2014年に政治側が官僚機構の幹部人事にまで関与できるようになった内閣人事局制度が発足したことにより、官僚機構はますます官邸が打ち出そうとする方針を諫めにくくなったという現実もあります。幹部人事を内閣が承認するという制度は間違ったことではありませんが、どのような制度にも長所と短所があり、短所が突出しないためには、丁寧で抑制的な運用が必要です。政治家が官僚機構の意見にも耳を傾ける度量、政治に従順かどうかだけで人事を決めないという節度や矜持が求められるのではと思います。この度量や節度、矜持を欠くと、政治に忖度して地位を得たり、省益を守ろうとしたりする官僚が出てきます。その結果、財政規律も損なわれると思うのです。