「消費などに使えるお金」はどんどん減っている

だが、この賃上げは「名目」の金額に過ぎない。拠出を「実質負担」というならば、「賃上げ」も「実質」で言わねばならないが、岸田首相が繰り返し「賃上げ」を言っても、物価上昇がそれを上回っていて、「実質」の賃金は下がり続けている。厚生労働省が2月6日に発表した2023年12月の毎月勤労統計調査(速報)によると、実質賃金は1.9%の減少で、マイナスとなるのは21カ月連続となった。名目の賃金が増えれば現行の社会保険料の負担額も増えていく。実質的な可処分所得、つまり消費などに使えるお金はどんどん減っているというのが実情だ。そこにさらに拠出金を上乗せするわけだから、今後、消費の足を引っ張ることになるとみられる。

これは統計にもはっきり表れている。総務省が2月6日に発表した2023年12月の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出は前年同月比2.5%減った。これも10カ月連続のマイナスだ。見た目の賃金が上がっても物価が大きく上昇しているため、消費する「数量」は抑えざるを得なくなっている、ということを如実に示している。巷の声で聞くようになった「物価が上がった分、節約するようになった」というのはこのことを指している。そこにさらに社会保険料を増やそう、というのだから、消費への打撃は避けられないだろう。

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「社会保険料」という名目で徴収するのは常套手段

なぜ岸田首相は国民を欺くような説明をするのだろう。御本人は深く考えず、官僚が用意した紙を読んでいるだけなのかもしれない。子育て支援にせよ、防衛費にせよ、きちんと説明して税負担を求めるのが政治家ではないのか。支持率低下や議席減を恐れて、国民が反対する政策は口に出さず、誤魔化そうとしているのか。

税金ではなく、「社会保険料」という名目で徴収するのは、日本の官僚たちの常套手段だ。保険料率を上げれば、給与が増えなくても天引きされる保険額はどんどん増えていく。社会保険料は「事業者と折半」というルールなので、給与をもらう人たちの負担感は小さい。だが結局は、企業は社会保険料の支払いを含めた「人件費総額」を見ているので、社会保険料が上がれば、新規採用を抑えたり、賃上げを抑制しようとする。結局は働く人にしわ寄せが来るわけだ。

増税と違い保険料率の改定は国民に見えにくいこともあり、反対の声が出ない。実は、それに味をしめた経験があるのだ。