筆者が考える「企画の隠れた意図」とは
コーナーの中盤で、お笑いコンビ「きしたかの」が、荒川区南千住の「立喰生そば 長寿庵」を訪れる。
「テレビのロケとか取材って受けたことありますか?」と聞かれた店長は、「受けた……来たんですけど、断りました」と答える。
初めて取材を受けた理由を問われ「今日は何となく」と伝えると、「これまで取材一切お断り」「奇跡の取材OK」との大きなテロップが続く。
南千住「長寿庵」の店主が、「何回か(取材が)来たけど断ってるんですよ」という、その理由は、番組では明かされなかったものの、少なくとも、テレビの取材を歓迎していたわけではない。
今回の企画の隠れた意図は、ここにあったのではないか。
飲食店にとっては、テレビ取材のメリット(一時的な集客)はあるものの、店の雰囲気が壊されたり、常連客に迷惑をかけたり、といったデメリットが上回る場合も多い。
さらに、番組を見る側にとっても、「テレビに出た店」の意味は、変わってきている。
「テレビロケが一度も入ったことのない店」=美味しくない、とは考えられないし、逆に、「テレビロケが多く入っている店」=美味しい、とは限らない。そんな見方が共有されているからである。
こうした風潮を逆手にとった「寺門ジモンの取材拒否の店」(フジテレビ系で不定期放送)は、すでに10年近く続いている。この番組では、取材を受けていないことが、それだけで価値を持っているのである。
その価値とは何か。
「取材拒否」が価値を持つ理由
メディアに出なくても客が来る、あるいは、出ないほうが客は来る、という自信のあらわれである。
「寺門ジモンの取材拒否の店」を紹介するフジテレビのサイトには、「メディアの取材NGの知られざる名店の扉を開く、唯一無二のグルメバラエティ番組」とある。
テレビだけではなく、雑誌や新聞、ブログといった、あらゆるメディアに出ない店を、「自他共に認める芸能界No.1グルメの寺門ジモンが、自身の築き上げた『食のコネクション』をフル活用」して取材する、という。
番組では、「取材難易度」が強調される。食通の寺門ジモン氏をもってしても簡単には取材させてくれない、そこにこそ、お店のプライドがある、というわけである。
「水曜日のダウンタウン」の企画が、どこまで、この「取材拒否の店」を意識したのかは、わからない。
ただ、先に参照したフードジャーナリストの山路力也氏が言う「穴場店」や「地域密着店」ではなく、あえて取材を断ってきた店も少なくない。「きしたかの」が飛び込んだ南千住「長寿庵」がそうだった。
たくさん取材を受けている店よりも、取材を拒否している店のほうが美味しいのではないかというとらえかたもまた、共有されてきている。