「老化のせいです」と言われたら希望がなくなる

「大学病院で診てもろたのに、なんでわからんのやろう。ちゃんと診てくれたんやろか」

Gさんは何度もそう繰り返していました。彼には大学病院ならどんな病気もわかるという思い込みがあったようです。もちろん、大学病院でもわからないことはいくらでもあります。

多くの高齢者は障害が起こると、その原因を知りたがります。病名を知りたいのです。病名がわかると少し安心します。治る希望が持てるからです。「病気ではありません、年のせいです」と言われるとがっかりします。老化は治らないと思っているからです。

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Gさんの歩行困難は神経性のもので、広い意味では老化による神経機能の低下が背景にあります。いつ転倒するかわからないので、車椅子を勧めますが頑として受け付けません。

「まだそんなもん、いりませんわ。それよりマイクロをお願いします」

超音波治療器はマイクロ波を照射して血液循環を改善させ、痛みを和らげるために使うものなので、Gさんの歩行困難には適用がありません。それでも以前から理学療法士にねだって、目的がちがうと説明しても納得せず、しつこく希望するので困るという報告を受けていました。今回、関節痛で超音波治療を受けていたJさんが歩けるようになったことで、Gさんは気持ちが沸騰し、矢も盾もたまらず私への直訴となったのでしょう。

Gさんの歩きたいという気持ちはわかりますが、リハビリをすれば元通りになるというのは幻想です。冷たく聞こえるかもしれませんが、リハビリの実際の効果は世間で思われているよりかなり少ないと思っておいたほうがいいでしょう。以前は無制限に医療保険で受けられたのが、脳梗塞などでは発症後180日までと制限されるようになったのも、それ以上はやっても意味がないと判断されたからです。

現実を受け入れることで前向きになれる

もちろん、リハビリがすべて無意味なわけではありません。特殊な例かもしれませんが、立命館アジア太平洋大学(APU)の学長、出口治明でぐち はるあき氏の場合をご紹介しましょう。

もともと生命保険会社に勤めていた出口氏は、60歳でネット型生命保険会社を立ち上げ、69歳でAPUの学長に就任した人で、何度かお目にかかったことがありますが、常に前向きな姿勢を失わない積極的な方です。

常に前向きというのは、現実をよくしようという姿勢で、私が常々推奨する現実を受け入れる姿勢とは、ある意味、逆です。前向きであれば、現実をよくすることもありますが、いつもうまくいくとはかぎらず、うまくいかなかったときの悔しさや不愉快を考えると、はじめから現実を受け入れ、その中に喜びや充実を見出すほうがいいのではないかというのが私の考えです。消極的かもしれませんが、現実を受け入れるというのは決して後ろ向きではなく、“足るを知る”ということです。

出口氏は72歳のときに脳出血で倒れ、後遺症で重度の右半身麻痺と言語障害となりました。私なら無理な回復は望まず、現実を受け入れて、自分にできる範囲での生活を選ぶでしょう。

しかし、出口氏はちがいました。自分の足で歩くことはあきらめた代わりに、言語機能の回復に全力を投じる決意をしたのです。