すべては和牛を高く売るため

なぜこんなことをしたのか。それはすべて、和牛を高く売るためです。

僕は、直接、海外のレストランのシェフたちにアプローチをすることを考えていました。それを世界展開の足がかりにする。日本で和牛を食べてもらうきっかけにする。

浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)

彼らにセールストークをするときに、その場で自分で切って焼いて試せるのと、それができないのとでは、説得力に大きな差が生まれることはご想像いただけるでしょう。

第一に、和牛という食材を調理したことがないシェフを口説かないといけません。ヨーロッパの牛のように調理されては、和牛の良さは引き出せないからです。

もちろん、もともと料理好きだったとはいえ、いきなり専門料理のプロフェッショナルになることはできません。また、精肉のプロフェッショナルにもなれない。しかし、少しでもそこに近づくよう、コツコツと努力することはできる。その努力を、シェフたち、あるいは海外の精肉業者も間違いなく評価してくれると思ったのです。

肉を理解して、自分で切れるようになり、自分なりの調理方法が生まれたことが、独特の「浜田語」で話す説明とも相まって、自分の料理として五感に訴える姿に変わります。

これが、後の「WAGYUMAFIA」で大きく生きてくることになります。和牛のシェフとしての他にないパフォーマンスが高い評価を得られるようになっていったからです。

生産者に喜ばれる「買い方」とは

次に、和牛の買い方、売り方にも注意をしなければいけないと思いました。第2回(「1キロ食べても胃がまったくもたれない」和牛の門外漢だった僕をビジネスに駆り立てた驚きの感動体験)で、尾崎牛の生産者・尾崎宗春さんの話をしましたが、そのとき展開していたのは、パーツ(部位の塊)で買うビジネスでした。しかし、パーツで売ってください、ということになると売り手も売りにくいのです。

なぜなら、パーツには限りがあるから。たとえば、人気のフィレ肉は、一頭から4~6キロ程度しか取れない。フィレ肉だけ売ろうとして100本とか用意しようとしても不可能です。なぜなら人気部位なので、売る方はフィレ肉単体で売りたくないからです。

フィレ肉を欲しいときは肉屋とのよほどの関係性がない限りは、ロインと呼ばれるサーロインとリブロースのセットでの販売を余儀なくされます。そうすると、どうやって他の部位を売り切ればいいか、ということになってしまう。

僕は、後発として新規参入する立場です。であるなら、何をすべきか、何が求められているのか。相手に喜ばれる買い方をすることです。