当時のメリー氏の夢は、自分の娘・藤島ジュリー景子氏をジャニーズ事務所の後継者にすることだった。だから、事務所内でめきめきと力をつけていたSMAPのマネージャー・飯島三智氏が邪魔だったのだ。

何とか飯島氏に難癖をつけて辞めさせる算段だったのだが、SMAPのメンバーが異を唱えたことが誤算となった。その結果、集団退所という事態を招いたことは読者のみなさんも周知の事実である。

2016年に起こったこの独立・解散騒動から7年も経ったいまでも、その影響は尾を引いている。それほどまでに、この騒動は遺恨を残したのである。

当時はもちろんのこと、その後ずっとテレビ局はジャニーズ事務所への忖度そんたくのせいで、旧SMAPのメンバーである「新しい地図」の稲垣、草彅、香取の三氏を積極的に使うことは避けてきた。

私は青春時代をともに過ごしたSMAPへの思い入れが人一倍強かった。だから、ことあるごとに自分のドラマに「新しい地図」のメンバーを出演させたいと社内で提案し続けていた。

SMAP 2008 超現代芸術パフォーマンスツアー(写真=リア・シャン/CC BY 2.0/Wikimedia Commons

ジャニーズ事務所の報復を恐れて報道しなかった

あるとき幹部から言われた言葉は、いまでも忘れない。

「そんなことをして、お前は責任取れるのか?」

新しい地図を出せばジャニーズ事務所を怒らせることになる。そういう意味だ。

またある編成社員がジャニーズ事務所のテレビ東京担当のマネージャーに「新しい地図を起用したら、事務所はどう思うか?」とやんわりと聞いてみたことがあった。

するとこう答えたという。

「止めはしませんが、ジュリーはあまりいい気がしないでしょうね」

静かな恫喝だ。

看板が撤去された東京・港区のジャニーズ事務所本社(写真=Dick Thomas Johnson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

以上のように、ジャニーズ事務所にたてつけば痛い目にあうという長年にわたる「刷り込み」がテレビ局どころかマスコミ各社に浸透し、自然と「はれ物」に触るような対応が習慣化してしまったのである。

今回のジャニー氏の未成年者への性加害に関する問題は、これまでにも何度か発覚している。暴露本が出されたのも1度や2度ではない。裁判沙汰にもなっている。これらの出版の際も、裁判でジャニー氏が敗訴したときも、テレビ局とほとんどのメディアはジャニーズ事務所の報復を恐れて報道しなかった。

このように「テレビ局の倫理観」というのは一般的な倫理観と大きくかけ離れ、ゆがみきっているのである。

有名芸能プロダクションへの「忖度」は本当にあるのか

誰かにそう聞かれると、私は「ある」と答える。

2023年の3月にテレビ局を辞めるまでの私であれば、「あるかもしれない」と答えただろう。だが、テレビ局からフリーな立場となったいまははっきりと頷く。

では「忖度」と一言で言うが、それはどういったものなのか。また、なぜ忖度がおこなわれるのか。それを解明していこう。