「これがしたい」と強く思いすぎると視野狭窄になる

人間は、特定のものを気にし始めると、視野狭窄きょうさくに陥り、それ以外が見えなくなる傾向があります。目の前に鼻毛が出ている人がいたら、つい鼻毛ばかり見てしまうのも、注目バイアスのせいです。やりたいこと探しにおいても、注目バイアスが働きます。

たとえば「芸能の仕事がしたい、芸能の仕事しかしたくない」と思うと、芸能関連の仕事の情報を脳はどんどんキャッチするようになります。

そうすれば、念願の芸能の仕事を手に入れられそうなものです。しかし、その人のやりたいことは、本当にその分野だけなのでしょうか?

私は5000名を超える人たちにインタビューしてきましたが、たとえば、芸能が好きな人には、いろいろなタイプがいます。

ある人は、芸能の仕事は「人を前向きな気持ちにさせる」からが大好きだといいます。ある人は「組み合わせてネタをアレンジできる創作がたまらない」と言います。また他の人は「自己表現できることが大きな魅力だ」という人もいます。

「芸能の仕事がしたい人」には、その仕事を通じて満たしたい感情があるはずです。しかし、その感情を満たす手段は、これを見ると決して芸能だけではないかもしれないことがわかります。

たとえば、「人を前向きな気持ちにさせたい」タイプの人は、それが本当に芸能だけなのか? ということを考えることが大切です。私も以前、何人もそのような方の相談にのってきましたが、意外と会話が好きで人と話す仕事で成功したり、同じエンタメであればメディアの仕事でもうまくいった人もいました。

それなのに、特定の仕事にばかりこだわると、注目バイアスが働きすぎ、やりたいこと探しの幅を狭めてしまうのです。

赤いカバンを買いに出かけた人はおしゃれな青いカバンを見落とす

見つけたいという思いが強すぎると、やりたいことは見つからない。

では、どうすればいいのでしょう?

「ウィンドウ・ショッピング」がヒントになります。買い物というのは面白いものです。「こんなものがほしい!」などとはっきりしたイメージを持って買い物に行くと、なかなかいいものが見つかりません。

たとえば、「赤いカバンがほしい」と思うと、注目バイアスの働きで赤いカバンに関する情報がどんどん飛び込んできます。

その一方で、赤いカバン以外のものが見えなくなります。

そのせいで、赤いカバンの隣にある素敵な青いカバンが目に入りません。

反対に、ウィンドウ・ショッピングは、商品を眺めて回るだけで実際には買い物をするつもりがないことをいいます。

つまり、目的もなくブラブラするわけですが、そのおかげで注目バイアスが働かず、視野が広がっている状態です。

赤いカバンも青いカバンも、なんでも目に入ってくる。そのうちに、「これ、すごくいいな」と思えるカバンを発見できる可能性が高くなるのです。

私はこれを、「ウィンドウ・ショッピング効果」と呼んでいます。

写真=iStock.com/JUN2
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