まず、第1に目立つのが、上司-部下の目標設定やコミュニケーションなどの「上司による職場マネジメント」の重要性である。例えば、「上司との面談などで職務内容や仕事の目的を明確に説明している」や「上司と部下のコミュニケーションを活発にする取り組みをしている」などが、働きがいおよび働きたいと大きな関連を示した。企業内の人のマネジメントにおける上司の役割の重要性を強調する結果となっている。また、直接上司のマネジメントではないが、「職場での一体感を促進する取り組み」の重要性も示されている。
企業内の人材活用を考えるうえでは、しばしば人事部門が行う、いわゆる人事制度の作成と運用に焦点があたる。だが、実際には人の働きがいや働きたいをもたらすうえで、最もダイレクトに響くのは職場でのリーダーによる現場マネジメントなのである。
考えてみると、上司の職場での人材マネジメントは、職場リーダーとしての上司のリーダーシップ行動だともいえる。優れた人材マネジメントは、リーダーによる人への動機づけや育成、活用なのである。現在、成果主義的な人事制度の導入などが進むなかで、成果目標の達成へのドライブをかけることに熱心な「課題達成型」の職場リーダーが多くなっているといわれる。この結果で確認されたのは、人の問題に関心を持つ、いわば「人材マネジメント型」とでもいえるリーダーシップの重要性を忘れてはいけないことだろう。
第2の特徴が、こうしたなかでも人事管理の仕組みや制度なども、働きやすさや働きたいなどとの関連では見過ごせないという点である。特に、不安の除去や安心の提供という観点から企業の仕組みとして提供される人事施策の重要性が目立った。例えば、「特に従業員のメンタルヘルスや健康上の問題に配慮している」「生活上の必要に応じて勤務形態と働き方の柔軟性を認めている」などが寄与度で上位にきている。さらに、従業員の意思を反映した異動の仕組みなども重要な機能を担っているようだ。これらはメンタルの問題や生活上の課題や変化への対応など、従業員の不安除去や安心感の提供のための仕組みが働きやすさをもたらすことを示す。そしてこの傾向は、働きたいという感覚との関係にも波及しているようだ。
もちろん、働きやすさでも、上司の重要性は再び強調されていることも事実である。「上司と部下のコミュニケーションを活発にする取り組みをしている」や「上司と本人の面談を通じた目標設定が徹底されている」が比較的上位にくるなど、上司と部下の関係を改善し、上司がきちんとした人材マネジメント型リーダーシップを発揮するための仕組みや徹底が、働きやすさの面でも重要なことが示されている。
したがって、注目すべきは、働く人が、働きやすさを感じ、働きたいと思うためには、上司の役割と、人事の仕組みや制度の両方が重要なことである。例えば、メンタルヘルスへの配慮などは、職場や企業の目標の達成とは直接の関連が薄く、そのため、ともすれば上司にとってのプライオリティが低くなる。そうした状況においてこそ、上司の行動をバランスさせるために仕組みの役割は大きいと従業員は考えているのだろう。
あくまでも仮説だが、上司は、しばしば仕事へのドライブをかける方向に強くプレッシャーをかけることがあり、バランスのとれた従業員価値を確保するうえでは、上司の“暴走”は、やはり仕組みなどによって制御されないといけないのかもしれない。