「起用継続」のテレビ局との大きな違い
ちなみに、サントリーは2014年に米蒸溜大手のビーム(現ビームサントリー)を約1兆6500億円で買収。直後に三菱商事出身の新浪氏をサントリーHD社長に起用した。キリンは今年、豪健康食品の大手を約1700億円で買収したほか、豪州で酒類事業、さらに北米と豪州でクラフトビールを展開中。サッポロは北米ビール市場において日系最大手の地位にある。
アサヒが先陣を切った形だが、ビール会社はいずれも、昔の国内専業ではなく、海外展開を進めて、世界と向き合っている。
一方、各テレビ局はジャニーズ事務所所属タレントの番組出演の変更を含め、現状維持を志向している。
NHKを除けば、テレビ局の経営は企業が出稿する広告に依存している。企業と民放テレビ局、さらには芸能事務所とをつなげているのが、広告代理店という構図だろう。
放送免許を発行する総務省が監督官庁であり、テレビ局はほぼ国内専業の事業者である。テレビ局間の視聴率競争は熾烈であり、社員の仕事も過酷といえよう(報道、アナウンサー、あるいはスタッフ部門など職場にもよるだろうが)。
「ジャニーズが圧力をかけていたのは事実」
ただし、キー局の新規開局などはなく、長期にわたる安定を享受している。また社員にしても、在京キー局の正社員であれば、給与所得は他の業界のサラリーマンと比較しても圧倒的に高いようだ。地方局や同じ局で非正規として働くスタッフと比べてもである。しかも、正規社員は終身雇用により身分はずっと守られている。
系列先の新聞社から経営者や幹部が異動してくる局はあっても、給料の高さと長期雇用という安定は代えがたいだろう。
そのせいなのかどうか、今回の問題についてテレビ局の関係者に取材を試みたところ、OBであっても、「よくわからない……」「権力をあなたはどう定義するのか」などとみな口が重い(突然な上、筆者の聞き方にも問題はあったろうが)。
それでも、在京キー局の現役幹部は次のように話してくれた。
「『タレントに罪はない』というのは詭弁。ジャニーズ事務所が競合する他の事務所のタレントを起用しないようにテレビ局に圧力をかけていたのは、紛れもない事実。現在、世に出ているタレントは実力もあったろうが、圧力という恩恵を受けていたのは間違いない。逆に他の事務所の有能なタレントが消えていった」