新たなルールをまた作る

【五十嵐】ただし、ぜいたく税というルールの観点から見ると別の問題も浮かび上がります。

大谷選手にとっては、強いチームでプレーしたい、勝ちたいという純粋な気持ちから、そうした契約内容にサインしたのでしょう。

もちろんルール上は問題ありませんが、これでは戦力の均衡を目的にもうけられたぜいたく税の意味がなくなってしまう。大谷選手の契約を機に、これからぜいたく税のあり方が議論されるはずです。いずれ、ぜいたく税というルールを見直す必要も出てくるかもしれません。

大谷選手の選択によってメジャーリーグのルールを変えてしまう可能性もあるわけです。これまでも彼はメジャーのルールを変えてきた実績がありますからね。たとえば、「大谷ルール」と呼ばれる先発投手がDHを兼務できる特例は、大谷選手の活躍でつくられました。

撮影=小川和行
五十嵐さん「大谷選手の次は山本投手がどこに行くかですね。ほんとうに来シーズンのメジャーリーグが楽しみです」

チームへの計り知れない影響

【五十嵐】大谷選手の存在には、集客力、グッズの売り上げだけでは計れない価値があります。チームにプラスの効果をもたらす希有な選手なのです。大谷選手は、お酒も飲まず、時間があれば睡眠をとり、自身のコンディションを最優先に考え、野球で勝つことだけに集中しています。

そんな大谷選手は、チームメイトにとって「周到な準備があって、あれだけの結果を出している」という最高の教材になります。

チームという組織内では、良い影響というのは必ず伝染します。実際、WBCの日本代表も、大谷選手から大きな刺激を受けています。

野球に取り組む姿勢やメンタリティーは、直接間接問わずチームメイトの刺激や学びになり新たな成長を促すでしょう。選手だけでなく、監督やコーチたちにも新たな気づきをもたらす可能性は大いにあり得ます。

今回の契約で、大谷選手は1000億円を貰うことではなく、何を与えられるかを考えているのかもしれない。そこに人間的魅力を強く感じます。

1000億円を超える価値

――1選手にとどまらない価値があるからこそ、ドジャースは1000億円を超える投資をしたのでしょうね。

【五十嵐】大谷選手は今年9月に右肘を手術しました。それ以前は契約金が800億円に達するのではないかと報じられていました。その後、ケガをしてしまって、契約金が下がるのではないかと言われていました。しかし結果として契約金が1000億円を超えた。

ドジャースはプレー以外の面も評価して、1000億円以上の価値があると判断したのではないでしょうか。(第2回に続く)

(聞き手・構成=フリーライター・山川徹)
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