増税路線には岸田首相の意志が働いている
【石橋】宮澤洋一さんはバリバリの財政再建派・増税派として知られていますが、この人を自民党税制調査会長に起用したのは、岸田さんです。
自民党税調は、政務調査会の下部組織ですが、山中貞則さんがドンとして君臨したころは、首相さえ口出しできないほど絶大な力を持っていました。
いまはそこまでの力はありませんが、政調会長が高市早苗さんから萩生田光一さんに変わったときも、岸田さんは萩生田さんに「政務調査会の人事は自由にやってよいけど、宮澤さんだけは留任させてほしい」と頼んだそうです。つまり、いまの増税路線は岸田さんの強い意志が働いているということです。
【田村】税制改革については自民党の協力が不可欠ですから、そのいちばん大事なところに身内がいれば安心です。
防衛費拡大に、財務省は増税で対抗
【石橋】本書の第四章冒頭で述べましたが、岸田さんは2022年暮れ、毎年5兆円で推移してきた防衛費を2023年度から5年間で43兆円に増額する方針を打ち出しました。
ウクライナ戦争や、緊迫する東アジア情勢を考えれば、至極真っ当な判断ですが、財務省としては国債を増やすことだけは絶対に避けたい。
そこで「防衛力強化資金」を創設し、防衛費増額分の財源をこの資金から賄うことにし、2023年6月に、防衛費増額に伴う財源確保法(*2)を成立させました。
防衛力強化資金は、歳出改革や公有財産の売却などで賄うとしていますが、これで足りない部分は増税となります。防衛費増のために国債を発行させないための防波堤のような法律です。
経済成長を持続させれば、年数億円の税収増は十分可能なのに、次期衆院選を見据えながら、こんな法律を慌てて成立させる必要があったのか。
防衛費増に反対する人はごく少数です。立憲民主党や共産党が「歯止めなき軍拡反対」と訴えても、次期衆院選にさほど影響はない。
でも、「軍拡のための増税反対」というキャンペーンを張られると岸田政権は厳しい立場に追い込まれます。
財務官僚にはこういう政局的な感覚はゼロなんでしょうね。岸田さんも同じです。
*2 防衛費増額に伴う財源確保法 防衛力強化に向けて、税外収入を積み立てて複数年度にわたって防衛費に充てる「防衛力強化資金」の新設を柱としている。