しかも昆虫の体は、人間のように大きな脳が情報を処理するのではなく、複数の小さな脳や神経中枢を体の節目に分散させて、体の各部位が条件反射的に反応できるようになっている。そのため、危険に対して極めて敏速に行動することができるのだ。

不気味なことにスリッパで叩かれて頭がなくなっても、ゴキブリは残った胴体だけで逃げる。体を動かす命令系統が分散しているから、可能なのである。おそらくは、こうした能力によって、ゴキブリは危険を察知し、危機を乗り越え、何度も大絶滅の時代を乗り越えてきたのだ。

人類と暮らす巧みな適用力、図太さ

とはいえゴキブリは、ずっと昔から変わらないわけではない。

森をすみかとしていたゴキブリは、人類が誕生すると、人類の住居をすみかとした。新石器時代や縄文時代には、すでに人類と共にゴキブリは暮らしていたという。姿はほとんど変わっていないと言われるが、巧みに時代に適応しているのだ。

稲垣栄洋『ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(ちくまプリマー新書)

ゴキブリは、シーラカンスなどと同じ「生きた化石」である。じつは身近なところに生きた化石はいる。たとえば、シロアリやシミも古生代から姿が変化していない「生きた化石」である。

もっともシロアリも柱を食べて嫌われるし、シミも障子紙や本を食べてしまう。これらの「生きた化石」は、いずれも人間にとっては、害虫なのだ。しかし、三億年を生き抜くには、この図太さが必要ということなのだろう。

現在、人類が引き起こす環境破壊によって地球に大絶滅が引き起こされると指摘されている。それどころか、人類さえも絶滅してしまうのではないかと心配されている。

それでもゴキブリは気にとめないようだ。おそらくは人類が地球から消え去ったとしても、ゴキブリは生き残ることだろう。だからね、嫌われても、叩かれても、ゴキブリも、そのままでいいんだよ。

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