悪質なデマ情報を信じた市議会議員

私も最近「一線」を超えた問題発言の事例に出合った。6月8日、秋田県にかほ市議会本会議で、市議1期目の髙橋利枝氏がデマに基づく一般質問を行ったのだ。

そのデマは埼玉県が設置の検討を進めている「オールジェンダートイレ」に関するものだ。オールジェンダートイレは性別(ジェンダー)にかかわらず誰もが使用できるトイレだ。例えばトランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と、性自認が異なる人)、トイレ介助の必要な異性の親を連れた人、子どもを連れた親などさまざまな人が使うことを想定して近年設置が増えている。

髙橋議員が引用した埼玉県のデマは、国会でLGBT理解増進法が議論されていた4月下旬から5月にかけてSNS上で急速に広がり、トランスジェンダー当事者への誹謗ひぼう中傷につながっていった。

埼玉県知事は「フェイクニュース」と否定したが…

まず匿名の人物が「埼玉県内の介護施設がジェンダーレストイレ、ジェンダーレス更衣室になり、職員たちは批判したが施設長は『県知事からお褒めのお電話をいただいている』と言っている」などと虚偽の情報をSNSに書き込み、その後「(更衣室などがジェンダーレスになったことで)職員が辞めた」というデマも拡散した。

これを受けて埼玉県知事は、5月2日、18日と2度にわたる会見で、一連の情報について「フェイクニュースである」「全く事実ではない」と否定した。その後、SNSの匿名人物は投稿を削除。「職員が辞めた」という情報を流した人物も虚偽の情報だったことを謝罪し投稿を削除した。

埼玉県知事5月2日会見
埼玉県知事5月18日会見

だが髙橋議員はデマを事実として発言。「一切の偏見はない」と繰り返しながら「見た目が男性なのにトランスだということでお風呂に入ってくるというような信じられない(ことが起こるのは)対岸の火事ではない」「トランスの方々を差別しないようにしましょうという結果、女性が差別を受ける」などと根拠不明な情報を用い、トランスジェンダーへの偏見につながりかねない発言を重ねた。また市川雄次市長もそれを事実として受け止め、答弁に応じた。

埼玉県の大野元裕知事。記者会見でデマ情報について否定した(写真=内閣府男女共同参画局/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons