「政府が価格をコントロールしようとしていること」が原因

なぜ、こんなチグハグが生じるのか。

最大の理由は、政府が価格をコントロールしようとしていることにある。原油やガスなどエネルギーは国際的な市況商品で、市場で価格が決まっている。本来、原油の市場価格が上昇すれば電力会社は自助努力でそれを吸収するか、価格に転嫁するかを決める。自社で吸収して電気料金を据え置けば、使用量は減らず、売り上げも変わらない。経済活動が活発ならば使用量は増えるだろう。一方で、コスト上昇を転嫁して価格を引き上げれば、料金上昇に耐えられない家庭は使用量を減らす。全体で需要が減れば、市場での価格は下落していく。需給によって市場で価格調整機能が働くというのが経済学の基本的な考え方だ。

ところが、そこに政府が補助金を出すとどうなるか。本来の価格は上がっているのに、補助金によって料金が抑えられるから、消費は減らない。つまり、市場での価格は高止まりしたままになる。市場で値上がりが続けば、政府はさらに補助金を出さざるを得なくなる。「市場」と「国家」がガチンコ勝負を挑むことになるのだ。

岸田内閣は「市場への挑戦」をしている

国家が強力で市場規模が小さかった時代は、国家が経済を統制することもできた。国の市場が閉じていればなおさらだ。ところがグローバル化によって市場が世界とつながった今、国家が市場をコントロールするのは難しいと見られている。

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岸田文雄内閣はそれに挑戦しようとしている、と見ることも可能だ。

電気代より前に「市場への挑戦」を始めたガソリンは、「激変緩和措置」と言いながら、すでに2年目も後半に入っている。開始した2022年1月は1リットル5円の補助金だったが、当初4月までだった期限を9月まで延長すると同時に1リットル35円に補助金を引き上げた。その後も延長を繰り返し、2023年9月までとしていたが、岸田文雄首相の経済対策の柱になって2024年3月まで延長されている。すでに6兆円の税金が投入されたが、原油価格が下がらなければ、やめるどころか、さらに延長、拡大となっていくだろう。つまり、一度始めたらやめられなくなるのだ。おそらく電気代に対する補助金も同じ運命をたどるに違いない。

もうひとつ、補助金が消費者に直接支給されるのではなく、石油元売会社や電力会社に直接給付されていることも問題が大きい。業者自身が自助努力で効率化しコスト高を吸収しようというインセンティブが働かないからだ。また、補助金によって価格を下げることが可能になれば、販売量は減らないから、売り上げも維持できる。まさに業者にとってはありがたいことなのだ。