文春社内で孤立していく取材班
一方、ジャニーズ批判をした松井と木俣は、社内的には孤立していきました。ジャニーズ事務所から、次のような嫌がらせがあったためです。
(1)ジャニーズ事務所は、「雑誌広告で、ジャニーズタレントが写っている広告は文春には入れないでくれ」と、各企業に圧力をかけました。気概があって、ジャニーズタレントが出ていない広告を別に作って入れてくれる企業もありましたが、わざわざ別に作るなどという面倒なことを企業が嫌がるのは当然で、そうなると広告収入は落ちていきます。
(2)また新商品の発表会でCMタレントがジャニーズだった場合、文春の広告部は出席不可になるか、発表会とは別の機会に説明を受けるということもありました。
(3)小説が原作になって映像化されるとき、本の帯に、映画の主人公の写真を入れることは多いのですが、それもジャニーズタレントだった場合、なかなか許可が出ません。最後まで許可が出ずに脇役の写真で済ませた例もあったようです。
つまり、広告部門と出版部門からは「松井と木俣はなんということをしてくれたのだ」というのが、文春社内での本音の反応でした。広告の説明会にも入れてもらえなかったと悔しがる広告部員の話をあとで聞いて、本当に同僚たちに苦労をさせたと、責任を感じました。しかし、それでも文春社内の誰もが、『週刊文春』がジャニーズと闘うことを許してくれたのは、文春には報道の自由を守るという社風があったからです。
常識人の話はジャニーズ事務所では非常識
私もまったく手をこまねいていたわけではありません。事態を何らか打開すべく、ジャニーズ事務所の顧問弁護士とも、小杉氏とも、その後1年か2年に一度は会いました。すでに役員になっていた松井編集長が同席していたこともあります。松井はどちらかと言えば意固地な性格なので、こういった交渉そのものを嫌がりましたが、説得して参加させました。
「たとえば、文春と告訴状態にないときは広告も写真も無条件で出しましょう。そうすれば雪解けもありますよ」といった話はジャニーズ事務所の顧問弁護士と小杉氏がよくしていましたが、彼らも、「常識人の話はジャニーズ事務所では非常識となってしまって通じない」とこぼしていました。
今回、藤島ジュリー景子元社長がインタビュー動画で語った、「自分の言い分が通らない組織であった」ということは、それはそれで事実だった面もあると思います。その後、編集担当役員となった私のことは、顧問弁護士と小杉氏から聞いていたらしく、何かあると、メリー喜多川氏から弁護士経由で伝言が私に来ました。文春は編集部独立体制ですから、すでに編集担当役員でしかない私は、相手の言い分を編集部に伝えることしかできません。