日本企業が目指すべき「ハイブリッド雇用」
日本企業が残すべきことは、第一に、一人ひとりの社員が、自社の経営理念やビジョンに誇りを持ち、日々の仕事に働きがいを実感できるようにすること。
第二に、日本企業の強みである企業内人材育成に磨きをかけ、仕事を通じて人が育つ現場をより強固にしていくことだ。
そこで、私が推奨するのは、日本企業が持つ人材育成の強みを活かしつつ、社員が自律型人材として自ら働きがいを創造しながら成長し、活躍できる「ハイブリッド型雇用」だ[図表3]。
日本特有の新卒一括採用と一人前になるまで大切に育てる慣行は、若年失業者があふれている世界の中で誇るべき仕組みである。これを捨てる代償は計り知れないはずだ。一人前の仕事力を身に付けさせるための年数は、業種や職種によって異なるだろうが、この一定期間を経た社員はジョブ型雇用の人事制度に移行する。そして、一人前になってからは、社員一人ひとりのキャリアビジョンや能力、適性、生活条件等に応じた働き方を柔軟に選びながら、自ら生涯にわたって学びつつ成長・活躍できる仕組みを整えるのだ。
早期退職という“締め切り”のおかげで起業を果たせた
サントリーホールディングスの新浪剛史社長が、2021年9月の経済同友会のセミナーで「45歳定年制」を論じ、物議を醸したのを覚えている方も多いだろう。発言の意図に反し、言葉が独り歩きして批判が殺到したため、すぐに誤解を解くための釈明に追われた。真意は「定年」に力点があるのではなく、誰もが45歳前後でのキャリア自律を目指す姿勢で仕事や自己啓発に励むことを奨励したのだった。しかし私は、持論のハイブリッド型雇用と共鳴する内容と捉え、評価できると感じていた。
私自身、40歳で前職のリクルートを早期退職(フレックス定年で卒業)することを決め、起業した。同社では入社時から自律を説かれ、私は覚悟の上で入社した。その後のOJTでも徹底的に自律意識を鍛えられた。この早い“締め切り”があったが故に、それまでに社外でも通用する一人前の力を付けようと、貪欲に働き、学び、その結果として起業を果たせたことに、今でも感謝している。