各局が脚本家の育成を始めた狙い

しかし今年、日本テレビが『日テレ シナリオライターコンテスト』、TBSが『TBS NEXT WRITERS CHALLENGE』(同9月1日~30日)を新設。また、フジテレビに次ぐシナリオコンクールの歴史を持つものの、実績で大きく劣っていた『テレビ朝日 新人シナリオ大賞』も昨年の大賞受賞者を夏ドラマに即起用するなど、巻き返しの意欲を見せている。

つまりこれは「脚本家の発掘・育成に各局が本気で取り組みはじめた」ということ。「古くから日本ドラマ業界の強みだった脚本に再び力を入れて、オリジナル作品を量産していこう」という姿勢であり、デビュー作で『silent』を成功させた生方美久うぶかた・みくのような若きスター脚本家の誕生が期待できそうだ。

ただ、今後は「1人の脚本家に任せる」という形だけではなく、海外では一般的なチームライティング(共同執筆)の必要性に迫られるのではないか。コンセプト作りが得意な脚本家、セリフがうまい脚本家、キャラクター作りがうまい脚本家、伏線を仕込むのがうまい脚本家など、それぞれの強みを生かすことで、クオリティが上がり、書ける本数が増えていくだろう。

実際、『VIVANT』はそれに近い形がみられたこともあり、増えそうなムードが漂っている。

注目すべき『VIVANT』のマネタイズ

最後に話を『VIVANT』に戻すと、今後のドラマ業界に重要なヒントを与えるようなマネタイズの試みが見られた。

まず配信再生数を増やすために徹底して情報を伏せ、タイトル、テーマ、ストーリーなどを明かさなかったこと。結果的にそれはTVerの無料配信だけでなく、系列の動画配信サービス『U-NEXT』の有料会員数を増やすことにつながった。さらに放送終了後も国内外での配信収入が期待できるはずだ。

放送中の物販もこれまでにないほど活発で、毎週さまざまなデザインのTシャツ、公式キャラクター「ヴィヴァンちゃん」や別班饅頭などのオリジナルグッズを販売。それ以外でも、ノベライズの上下巻、コンビニ「NewDays」とコラボした赤飯おこわなど、多面的な商品展開が見られた。

イベントにも力を入れ、入場と配信での両方でチケットが売れるファンミーティングを開催したほか、放送後にはJTBとコラボしたロケ地ツアーを企画。それ以外でも、第9話の前に『緊急生放送150分SP』を仕掛けて、日曜ゴールデンタイムの視聴率獲得にも貢献した。

今後も待望されるシリーズ化や映画化、スピンオフの放送・配信などで稼ぐことが期待されている。『VIVANT』は、「ほぼ視聴率ベースの放送収入のみに頼ってきた」という危ういビジネスモデルからの脱却を提示した。このような試みが各局で進めば、制作費アップが期待できるだけに、日本ドラマの可能性は広がっていくだろう。