初公開「吉祥寺・ハモニカキッチンの思想」（7）ハモニカ横丁にコム・デ・ギャルソンを

みんな池上彰の読み過ぎですよ

【手塚】いろんな取材は来るんだけれど、こういう話を書いてくれそうなところって、全然なかったんですよ。今日は面白いな（笑）。この前、近畿日本ツーリストが来た時も、最後のところで昭和レトロの何とか「三丁目の夕日」みたいな話でまとめられちゃって。これ、ちょっと問題じゃないですかって言ったら、「いや、まあ、全般的な話だから」とか言われちゃって。どんどんわかりやすくまとめちゃうんですよ。

【三浦】みんな池上彰の読み過ぎですよ（笑）。マスメディアはそうなっちゃうんです。でも、中にはそれに満足できない読者っていうのが必ずいて、本を読んだりして考えている。あっ、そう言えば、以前、藻谷浩介が吉祥寺を案内して池上彰が話すというテレビ番組がありましたね。

【手塚】あったあった。

【三浦】ああ、これはもう吉祥寺は駄目だと思った。

【手塚】中道通りがいいのは3階以上建てないからだとか、いかにも持って回った感じで言ってた。

【三浦】吉祥寺でも成功の法則を見い出そうとしちゃう。それはコンサルタントの仕事だし、そうなるのはよくわかる。説明するにはそういう法則が必要なんだけれど、そういうことを言う人たちが来るようでは、もうこの街は面白くないんだなとぼくは思っちゃうんだけどね。

【手塚】それはあるねえ。

【三浦】その点、高円寺は法則がまだ見出しにくい。これが法則かと思ったら、翌年には潰れているから面白い。

【手塚】なかなか読み解けないよね。

【三浦】現代美術と一緒なんですよ。街も、読み解けないから面白いっていう状態がないと困っちゃう。次の視点が出てこないから。

【手塚】高円寺は、ちょっと広げようとするフランチャイズ系の焼肉屋とかが出店しても、だいたい潰れているよね。

【三浦】そうなんですよ。チェーン店が成り立たない。

【手塚】だから高円寺は強いんですよ。ぼく、強さの原因は貧乏だと思うもん。どう見たって「人、入ってねえな」みたいな店に人がいる。入口なんかめちゃくちゃなつくりなのに。よく大家が許すなと思うような店がある。

【三浦】高円寺はTSUTAYAも撤退した街ですからね。吉祥寺は要するに「1回3000円の飲食を払える30代」みたいな、それこそコンセプト先行の店ばっかりになっちゃう。

【手塚】そうなんだよね。この間、早稲田通りの古本屋街に行ったんだけど、やけに蚊に食われたんですよ。今どき、蚊のいる街って珍しいなと思って。吉祥寺で蚊に食われるってあんまりないからね。だから面白い街だなと思った。吉祥寺も、「Hanako」が紹介している吉祥寺じゃなくて、違った視点でもう1回、この街の変なところ、多様性みたいなものを訴えないと、明らかにつまんなくなっちゃうと思いますよ。よく探すと、まだ変なところもあるんですけどね。もうちょっと大人の変態がたくさんいないと駄目ですね。山田五郎とか、みうらじゅんみたいなのがいないと。ああいう人たちは、今はもう高円寺のほうに行っちゃう。

【編集部】大人の変態。なるほど、「タモリ倶楽部」は吉祥寺ではロケしなさそうですね。

【手塚】タモリも意外と外れているようで外れてないような気はするけどね。

【三浦】さっきアトレの中のガーデンでパスタを買ったら、4人しか並んでないのに10分ぐらい待つんですよ。もしかしたらガーデンが人を減らしたのかもしれないけれど、全然レジが進まない。西荻窪でパスタを買うのに10分待つなんてありえない。吉祥寺は、実際に生活するには不便になっちゃっていますよ。たまに来るのは楽しいけれど、何か目的があって買うときには不便な街になっている。自転車を停めていると怒られるし。ブラブラするには楽しいんだけれど、住むには実は不便な街ですよ。住みたい街は住めない街なんだね。今の吉祥寺は、「来る街」になっちゃった。

【手塚】しかし、本当に住みたいって思ってるのかね、吉祥寺に。ああ、こういうこと言うからまた問題になるのかなあ（笑）。