クマに遭遇するのは農山村エリアとは限らなくなっている

10日深夜、巡回中の警察官が武家屋敷通りを歩くクマを目撃した。翌11日午後には2頭が桧木内川を泳いで対岸に渡り、郵便局前など町中心部をうろつき回った。13日朝には診療所の敷地内で、体長50センチほどの2頭が高さ30メートル超の木に登り、何時間も上り下りを繰り返した。吹き矢や銃で麻酔を打って眠らせるにも、高い場所にいるので狙うのは困難。しかも周りには住宅やホテルがあるため追い回して捕獲することもできない。暴れず静かに山林へ逃げて行くのを祈り、ただ見守るしかなかった。

町中心部は緊迫した物々しい雰囲気に包まれた。警察が何台ものパトカーで巡回し、「近くにクマがいます。建物の中に入ってください」と連呼。事情をよくのみ込めない観光客はおののくばかり。翌日、工芸品の販売イベントを予定していた団体は急遽、爆竹やホイッスル、クマ撃退スプレーなどを用意し、厳戒態勢を敷いて臨んだ。

北秋田市の中心部では10月19日朝、通学のためバスを待っていた女子高生がクマにかまれるなど計5人が相次いで襲われた。登下校時の児童生徒に被害が及ぶ事態を恐れていたが、ついに現実となってしまった。クマとの遭遇は農山村エリアに限らず、市街地でも常態化しつつある。

提供=秋田魁新報社
秋田魁新報、10月20日付の紙面

記者生活25年で初めての「クマ異常事態」

私は入社以来、大半を社会部で過ごし、長らく環境分野も担当してきたが、25年の記者生活でこれほどの異変に直面したのは初めてだ。秋田県内の山間部で生まれ育ち、山菜採りやイワナ釣りで山に分け入る中でクマを何度も見てきたが、あらかじめ蚊取り線香や鈴などでこちらの存在を知らせれば、相手が先に気づき、そっと姿を消すのが常だった。クマは本来、人間を恐れて会うのを嫌う動物なのだと思う。

ところが近年はすっかり様相が変わってしまった。異常出没の背景には何があるのか。

一つの要因は過疎化、すなわち人口減少ではないかと考えている。人間と野生動物は互いの生息圏を広げるべく、長らく“陣取り合戦”を繰り広げてきた。人間社会はいま、劣勢に立たされているのではないか。

国内全体では明治以降、2004年まで人口増加が続き、森林開発も盛んに進められ、人間側が境界線を押し広げて優勢を保ってきた。一方、秋田県では半世紀ほど早い1956年から減少に転じ、一時持ち直しはしたものの、減少基調をたどっている。過疎化に加え、全国最速ペースで高齢化も進行。山林の手入れが滞り、耕作放棄地が至る所に点在するようになり、かつての田や畑はやぶや雑木で覆われた。クマにとっては陣地に入り込み、生息域を広げる絶好のチャンスが訪れたというわけだ。