昨年3月3日に開かれた国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議が賛成多数(賛成141カ国)で採択された。アフリカ諸国は54カ国中、8カ国が欠席、17カ国が棄権し、1カ国が反対票を投じた。こうした動向に、坂根事務局長は「ロシアによるアフリカ諸国の軍事セクターへの関与とは無関係ではない」と指摘する。

アフリカではクーデターや軍部による騒乱が次々と発生している。2021年1月から2022年2月までに9件のクーデターなどが発生し、このうちマリ、チャド、ギニア、スーダン、ブルキナ・ファソの5件が「成功」している。2000年以降では最も高い発生件数に達しており、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、相次ぐ不測の事態が「クーデターの流行」にあたると述べ危機感を表明した。

ロシアの関与は、現地情勢を不安定化させているだけではない。国連に加盟するアフリカ54カ国は、全加盟国193カ国の3割近くを占める。文化的・軍事的影響を通じて親ロシア派の国家を増加させることで、国連決議にさえ影響与えかねない事態を招いている。

欧米と一線を画し、現地政府の支持を得てきた

なぜロシアは、アフリカと関係を築くことができたのか。欧米諸国による支援とは異なるアプローチが、大きな要因として挙げられている。

ヨーロッパのオンラインメディアであるユーロ・ニュースは、ワグネルがロシアの利益を助長するために活動しており、結果としてアフリカ全土でロシアの影響力が増していると指摘している。

中央アフリカ共和国に派遣されたワグネル・グループの傭兵たち(写真=CorbeauNews/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

欧米諸国であれば支援を提示する際、引き換えに、現地の人権問題の改善を要求するのが通例だ。一方でロシアは、見返りさえ確保されれば現地の政治事情には口出ししない。

フランスの独立系地政学シンクタンク「イースタン・サークルズ」は、ユーロ・ニュースに対し、「若者たちのダイナミズムを支持し、『あなたたちの行動を支持しますし、人権侵害があっても裁きません』と言っていることが(ロシアの)特色なのです」と語る。

ロシアは西側と異なるスタンスをとり、これによってワグネルが現地に巧妙に入り込んでいるのだという。武器供給のほか、政情不安が続く強権国家にとってワグネルは治安維持の頼れるパートナーになったからだ。

強権政府を守るために、人々の生活を破壊してきた

だが、ワグネルは治安維持の英雄などではない。現地男性がCBSニュースに語った証言は、ワグネルがアフリカの一市民の生活を破壊したケースを克明に物語る。

ウスマンという仮名で取材に応じた中央アフリカのこの男性は、かつて家族で金の取引業を営んでいた。「とても裕福でした」とウスマン氏は振り返る。「家族全員の教育費を賄い、いい暮らしをしました。何も不自由はありませんでした」

2021年、家族が住む町にワグネルが進出したことで、状況は一変した。ウスマン氏の弟は殺害され、姉たちは強姦ごうかんされ、そして金取引のビジネスはロシア人によって奪われたという。ウスマン氏自身は、ワグネルの基地にある仮設の監獄に連行された。何日にもわたる間拷問を受けたあと、やっとのことで脱出したという。