ロビイストだった男のありえない転身

米国ではロビー活動はごく一般的だ。政府高官が実は過去に企業のロビイストだったということもある。しかし、巨大ITの「敵」である司法省反トラスト部門トップが過去にグーグルのロビイストだった、と知った時には驚くしかなかった。

トランプ政権下の2019年、司法省は巨大ITの調査に乗り出すと発表。調査の指揮を執るのは反トラスト部門トップ、マカン・デラヒムだった。

「競争の規律が働かなければ、(巨大ITが)消費者の要求に応えなくなる」

デラヒムはそんな声明を出し、調査の重要性を強調した。

デラヒムはその後も好調だった。米議会公聴会ではグーグルとフェイスブックの名を挙げ、両社のネット広告事業を調査していると明かした。当局が調査対象の企業名を公にするのは珍しいことだった。

ところが、驚くことにそのデラヒム本人がグーグルのネット広告事業と密接に関わっていた。デラヒムは2007年、グーグルのロビイストとして、グーグルによるネット広告大手「ダブルクリック」買収の承認を支援していたという。

政権と民間で人材が行き来する

「(グーグルは)ワシントンでの活動を強化するため、外部の三つのロビー会社とも契約した」
「(共和党寄りの一つのロビー会社は)ブッシュ政権で司法省副次官補として独禁法チームの責任者を務めたマカン・デルラヒムを迎えたばかりだった」

グーグルが巨大化する過程を追った『グーグル秘録』にデラヒムの名前が出てくる。

画像や動画の広告に強みを持つダブルクリックの買収は、ネット広告市場でのグーグルの支配力を決定づけたと言われていた。

「彼ほど分かりやすい形で(元ロビー担当企業に)偏った政策を打つ人はいないですよ。司法省の反トラストの長になった人間がそれでいいんですかね」

ある米国の弁護士からは、そんな話も聞いた。かつてグーグルのロビイストだった人物がグーグルの調査を指揮する。そんなことが許されるのだろうか――そう思うのは私だけではなかったろう。

2020年初め、デラヒムは静かにグーグルの調査から身を引いた。司法省は「以前の仕事との利害関係を改めて検討したところ、巨大ITの調査に関わる案件から身を引くべきだと判断した」とする短いコメントを出しただけだった。

政権と民間の間でめまぐるしく人が出入りする「回転ドア」。急成長の過程で、将来の独禁当局トップをロビイストとして取り込んでいた事実は、グーグルの強力な政治力を感じさせた。

写真=iStock.com/JHVEPhoto
※写真はイメージです