「アルマーニだ」と言って間違いないのは紳士服の世界でも互いに影響され、どうせ似たようなデザインになっていることが多いからだ。当てずっぽうでも「アルマーニに似ている」ことなどいくらでもあるだろう。特に日本の紳士服など外国ブランドのほぼパクリに決まっている。
社長は、これをどこで買ったとか、ファッションの話をいろいろとし始めるだろう。毎日服を着ていて、それなりの地位にいる人間なら、服装についてなんらかの考えを持っているはずだ。ないというのであれば、なぜないのか。
「服なんて男の考えることじゃない」
であれば、「男論」を拝聴すればいいし、「無関心で、嫁に任せっきりだ」と言うのであれば、社長の奥さんのセンスを褒めちぎればいい。どうせ家庭では夫婦の会話はネタ切れだろうから、とても喜ぶはず。はじめに「アルマーニですか」とヨイショしているので、どう転んでも楽しく話が展開していく。天気の話をするよりは、熱のこもった会話になるだろうし、上司との距離感を考えても適切な話題だ。
あともう一押し、社長への印象を強くしたいのであれば、こう切り出してはどうだろう。
「社長、僕のしているネクタイは、どこのブランドかわかりますか。フランスの超有名ブランドで、スカーフが人気で、カタカナ4文字、最後の文字は、ス。2番目の文字は、ル……」
フランスのブランド、○ル○ス。
「エルメスか」
「違います、アルニスです」
アルニスとは、実際にフランスにある超有名ブランドだ。柄もよく似ている。ここで重要なのは、アルニスをエルメスっぽく発音することだ。あらかじめ練習をしておいたほうがいいだろう。面白い話をしようと、暴露話をしたり大げさなことを言う人もいるだろうが、そんな人は信用されない。「口にチャックにガムテープ」が出世のための鉄則だ。
1945年、長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理大臣首席秘書官。現在、松本歯科大学特命教授、ウガンダ共和国政府顧問、シエラレオネ共和国日本総領事。最新刊『プーチン絶賛の仕事術 リーダーの掟』。