現代のリーダーにふさわしのは「共感力」のイノッチ

3つ目が、東山氏のイメージ戦略のミスです。東山氏は自分を「厳しい人間」と称しましたが、そうした一面がよく表れた会見でした。「厳しさに耐えてこそ、人は成長する」というストイックな考え方が根底にあるのでしょう。特に鼻白まされてしまったのが、半ばナルシスティックで、悦に入ったような強烈な「自意識」でした。

●僕らは命を削るほどの作業が必要だと思うんですね。そこには厳しさもあり、やっぱり耐えなければいけないことも多々あると思います。陰で流す涙の量、そして汗の量というのは、ファンの人たちの思いに応える唯一の作業だなとも思っておりますので、それを怠らないようにしていきたいとは思ってます。

● 私はその度に今後の人生をかけ、そして命をかけ、この問題に取り組んでいきます。

● 多分ハラスメントの問題というのは世界的なもので、それをどこかでやはり表現していかないといけないなと思いますので、僕らは提言にあったように、それにちゃんと正しく向かい、そしてロールモデルを作っていく、これが今後の役割になっていく。

「僕」か「僕ら」といった主語を多用し、まるでスーパーヒーローのように、苦難を乗り越えていく自分を演じているようにも見えてしまいました。大岡越前調の話し方にも若干の自己陶酔感がうかがえたわけですが、その極め付きが、「夢や希望を握り潰された彼らと夢を諦めた僕とで、しっかり対話をするということがいいのかな」という一言です。

師匠であるジャニー氏の行動を「鬼畜の所業」と切って捨て、「愛情はない」と断言しただけに新社長就任にあたり強い責任感を抱いているのでしょう。他に引き受け手がなく仕方なくこの難役を担うと心に決めたため、という側面もあるのかもしれません。ただ、どこか上から目線の発言の数々に違和感を覚えた人は少なくなかったでしょう。

一方のイノッチの発言は一つひとつが気づかいとやさしさにあふれ、心からの本音に聞こえました。

● 僕はジュニアの子たちにいつも「(お客さんが)どんな気持ちでライブに来てくださってるのか。何日も前からチケットを取って、高いお金を払って飛行機を取って。髪をセットしておしゃれして来てくださることを1からちゃんと考え直してステージに立ちましょう」と言っております。手作りのうちわを作ってくれたりとか、精いっぱい力の限り応援してくださっていて。

● 権力を持ってしまうことはあり得る話じゃないですか。ですから、そこは最初からすごく気をつけています。(中略)ですから僕かそれか僕の部下が権力を持たないような仕組みっていうのは、皆で考えていかなきゃいけないなと、常日頃話し合っております。

岡本純子『世界最高の伝え方』(東洋経済新報社)

といったように「謙虚」で、ファンやジュニアの子供たちの視点に立った発言が目立ちました。常に相手の気持ちをくみ取り、寄り添う、という姿勢がにじみ出るエピソードの数々。

相手視点に立ち、高い共感力をにじませたイノッチと、「強い自分」アピールに徹し、ある種の男気、侠気をにじませるヒガシの対比があまりに鮮烈だったわけですが、現代のリーダーシップに最も、欠かせないと言われているのは実は前者の「共感力」です。

「ヒガシ流リーダーシップスタイル」は果たして通用するのか。ジャニーズ事務所への逆風は弱まるどころか、さらに強まっており、その行く手は極めて厳しいものとなるでしょう。

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