安全保障環境は「平時から非常時に」

ひとつは、麻生氏に、東アジアの安全保障環境が「平時から非常時に変わりつつある」との認識があるからだ。

昨年8月にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問したことに中国が猛反発し、台湾周辺で軍事練習を展開し、弾道ミサイルのうち5発を日本の排他的経済水域(EEZ)内の海域に撃ち込んだことがその一例だ。中国軍の目標の一つが与那国島の陸上自衛隊のレーダーだった、と一部で報じられている。

台湾有事が発生すれば、日本が「当事者」になる恐れが大きいこと、台湾に隣接する島嶼部が攻撃されることを想定しなければならないことを意味する。

中国が米国の軍事介入を考慮し、始めに在日米軍基地をサイバー・ミサイル攻撃することもあり得る。米軍が介入し、日本がそれを支援することで巻き込まれるのではなく、いきなり日本の個別的自衛権行使の話になるのである。

その後、習近平国家主席が昨年10月、3期目に入った第20回中国共産党大会で、台湾統一をめぐって、「決して武力行使の放棄を約束しない」「祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」と強調したことも、台湾有事のリスクをさらに高めている。防衛省筋によると、「必ず実現できる」と述べたのは初めてで、党大会で「武力行使を放棄しない」とうたったのは今世紀に入って初めてだという。

Cop21に到着した習近平氏(写真=COP PARIS/CC-Zero/Wikimedia Commons

「2027年までに台湾侵攻の準備を」と習氏

ウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官は今年2月、ワシントンでの講演で、習主席が「2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう軍に命じたことを指すインテリジェンス(情報)を把握している」と述べ、内外に警戒を呼び掛けている。27年は習政権の3期目が終わる年に当たる。

こうした緊迫した中台情勢に、麻生氏は、日本も台湾有事に関与(コミット)するという意思を台湾側に伝えるとともに、米国もきちんと台湾防衛に積極的に関与すべきだ、と迫っているとも言えるだろう。

ジョー・バイデン米大統領は、中国が台湾を武力統一しようと図った場合、米国としてどう対応するかを明らかにしないという歴代政権の「曖昧戦略」を踏襲している。それによって、中国による台湾侵攻を抑止すると同時に、台湾が独立を目指そうとする動きを防止する狙いがあるとされている。

米国は犠牲を払ってまで台湾を守るか

バイデン氏は、21年8月から4回にわたって、台湾有事に軍事的に関与する意思を明示しながら、その都度、「米国の政策に変わりはない」とし、関与を否定してきている。

麻生氏の狙いは、バイデン米政権に曖昧戦略から脱却し、台湾防衛への関与を明確にするよう求めることだが、簡単ではない。米国が台湾を守るのは、台湾関係法(1979年制定)によるオプションに過ぎず、台湾に対する協定上の義務はないからだ。米国が多大な犠牲を払ってまで台湾を守るのか、との疑念は残っていくだろう。