バースデーライブには2万人が駆けつけた
妻から掃除、洗濯を教えてもらっていて、彼女と飲む酒が一番うまいと話す。
沢田は「テレビは出続けていると怖いもんなしですが、今たまにでるとアガります」
「残された道は生で歌い続けること」と思い定めてライブに全力を注ぐようになる。
変わったのはそれだけではなかった。政治的メッセージである「我が窮状」を歌って世に問うたのである。大江健三郎氏らが呼びかけ人になった「九条の会」から誘いの手紙をもらったのがきっかけだったという。沢田自らが作詞したこの歌には、「我が窮状 守りきれたら 残す未来輝くよ」というフレーズがある。
東日本大震災で多くの大事なものを失った被災地の悲しみを歌った「3月8日の雲」もある。以来、毎年3月11日にはミニアルバムを出して死者を悼んでいる。
還暦ツアー、古希ツアーで全国のジュリーファンを熱狂させた。だが、さいたまスーパーアリーナは「観客が少ない」という理由でドタキャンしてしまった。
しかし、今年の6月25日、彼の誕生日に行われたバースデーライブはさいたまスーパーアリーナで行われ、「まだまだ一生懸命」には2万人近くのファンが詰めかけ、リベンジを果たしたのである。
「あの頃の自分」を思い出す人が多いのではないか
私はWOWOWで見た。ザ・タイガースの仲間であった岸部一徳、森本タロー、瞳みのるをバックに、沢田研二が虎の着ぐるみをまとって歌う第1部から、ローリング・ストーンズのカバー曲「サティスファクション」を歌う第3部まで、3時間以上舞台を縦横に走り続け、歌い続けた。まさに圧巻のジュリーの「ワンマンショー」だった。若い時と比べれば、かなりふっくらした体に白い髭を蓄えてはいるが、そこには紛れもないジュリーがいた。
『ジュリー』は膨大な資料や関係者のインタビューで構成された沢田研二の集大成である。彼のファンでなくても、読みながらあの頃の自分を思い出し、しばしページを繰る手を止めてもの思いにふける。そんな至福の時間を与えてくれる良書である。
名優が自分史を語る名著といえば、竹中労が聞き書きした『鞍馬天狗のおじさんは 聞書アラカン一代』(徳間文庫)や森繁久彌の『森繁自伝』(中公文庫)がある。『水谷豊』もその列に並ぶおもしろさと、貴重な証言が詰まった読み応えのある書籍である。ベストセラーになったのは当然である。