「この子かわいい! この子と関わってみたい!」

ココさんはファッション業界で長年働いてきただけあって、結構気が強い(映画『プラダを着た悪魔』を見ればわかるだろう)。ボク自身、TGC時代に非常に気が強いファッション関係者を相手にしてきたので、慣れてはいた。

ココさんと話したところ「ちょっとしたことではめげないだろう」と感じた。そこで、最も手強い生徒が揃っているアインシュタインで働いてもらうことにした。その手強い生徒の中でも最強なのが、がっちゃんだ。

ココさんは現場に入ると、さっそくがっちゃんの噂を耳にして興味を持った。

「社長の息子なのに出禁になっている子がいるって、一体どんな子?」

がっちゃんのその頃のマイブームは、全身の毛をハサミで切ってしまうことだった。

まず、性器に生えてくる毛を切ってしまう。髪の毛も自らバリカンで刈ってしまう。だからがっちゃんは、いつも変な五分刈り状態だった。さらには、眉毛とまつ毛もハサミで切ってしまう始末だ。このときのがっちゃんは、完全なヤンキールックスだった。

でも、ココさんはそんながっちゃんに一目惚れだったという。

「この子かわいい! この子と関わってみたい!」

ココさんはこう強く思ったそうだ。

筆者提供
GAKUさん

スーパー多動症のがっちゃんの担当は大変

ココさんが入って、2カ月ほど経ってからのことだ。そのときはまだ週2、3日のパートだった。そんなココさんが、ボクに話があるという。

「がっちゃんを担当させてください! がっちゃんは午前中、ノーベルですよね? そこのスタッフが辞めると聞いたので、私が担当したいです」

スーパー多動症で、いうことをまったく聞かないがっちゃんの世話は、大変だ。こんな大変な役回りを志願するようなスタッフがいるとは、思えなかった。

「……いいですけど、本当にいいんですか」

ちょっと意表をつかれたが、ココさんならがっちゃんに対してマウントをとれるかもしれないと思った。

「では、常勤になってください。午前はノーベルでがっちゃんの担当を、午後はアインシュタインでお願いします」

ここから、がっちゃんとココさんの物語が始まった。がっちゃんが高校2年生の夏のことだ。ココさんも最初のうちは、がっちゃんに勉強をさせようといろいろな方法を試していた。

がっちゃんの学力を見ようと、算数のドリルを試しにやらせてみたところ、足し算と引き算はなんとかできることがわかった。掛け算も九九まではできた。ただ厳密にいうと、数字を掛けているのではなく足し算をしていたのだが……。

そして割り算を試したところ、がっちゃんの中には「1より小さいもの」という概念がないということを知る。

「1÷2」は「0.5」ではなくて「2」なのだ。リンゴをふたつに割れば、それは「2個」になる。これはがっちゃんが正しいといえば正しい。