共演した超大物ミュージシャンたち

魂のこもった演奏を聴かせるライブにも定評があり、北米を中心に、毎年のようにワールドツアーを行う。昨年は南米・パラグアイに赴き、同国を代表するオーケストラとチャリティーコンサートを開催。東ヨーロッパでの人気も高く、今回の戦争が始まる前は、ロシアやウクライナでも頻繁にコンサートを開いていたという。

マイルス・デイビス、ライオネル・ハンプトン、ジェームス・イングラム、パティ・オースティンなど、共演したミュージシャンも大物揃い。ジャズ・フュージョン界を代表するピアニスト、ボブ・ジェームスとは、連弾でワールドツアーを行い、アルバムも共同制作している。また、彼女のアルバムには、ヴィニー・カリウタ(ドラム)、カーク・ウェイラム(サックス)、マーカス・ミラー(ベース)、レイラ・ハサウェイ(ヴォーカル)といった錚々たるメンバーが参加しているのだ。

改めて並べると、その経歴はまばゆいばかり。だが、ご本人はいたって謙虚で、ここまで続けてこられたのは、ファンのおかげだと繰り返す。

「デビューしてから、オリジナル曲だけでコツコツとアルバムをつくり、コンサートを重ねてきました。毎回のようにコンサート駆けつけてくれる追っかけファンもいれば、4世代で来てくださるご家族もいる。ファンの方々がいるから今日がある。ライブでは客席のお客様と心がつながっているように感じます。そんな絆の強さに私自身も支えられているんです」

ファンの想いに応えるように、コンサート終演後はロビーに出て、直接言葉を交わしたり、サインに応じたりする。そんな真摯しんしな姿勢が、ファンをさらに虜にするのだろう。

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なぜ彼女の音楽に人々は惹かれるのか

彼女の音楽は、R&Bやロック、フュージョン、クラシックなどの要素を採り入れたコンテンポラリージャズ。「スムースジャズ」と呼ばれるジャンルを専門とするアメリカのFMラジオ局でよくかけられている。そのため、ラジオで耳にしたことをきっかけに、ケイコ・マツイの曲のファンになる人が少なくない。

ドラマチックで情熱的かと思えば、繊細で叙情的と、その音楽はさまざまな表情を持つが、聴かれ方もかなり独特だとか。ほかのスムースジャズのように、聴き心地の良い曲だから人気がある、というだけではない。「『魂の故郷に帰ったような気持ちになる』と言われたこともあります。たくさんの人が私の音楽を精神的な拠り所にしてくれているんです」。そう力を込めるのだ。

「ケイコの音楽は魂の栄養だ」とファンは言う。「心が安らぐ」と語る人もいれば、「生きるエネルギーが湧いてくる」と評する人も。

闘病生活を送る病室で。刑務所の塀のなかで。苦しみに寄り添うような彼女の音楽に救われた人たちから、続々と感謝のメッセージが届く。「あなたの音楽のおかげで、絶望のなかに光を見つけることができました」と。

アメリカの有力紙「ロサンゼルス・タイムス」は、こう評している。

“There is a strong spiritual quality Keiko Matsui brings to all of her creative projects.”
ケイコ・マツイの創作すべてに、強い精神性が宿っている。