オムレツを出せば「目玉焼き」を指示される状況
あるベテランのシステムエンジニアが以前、こう表現したことがある。
「上層部の人が注文の時に『卵料理』としか言わないので、オムレツを出すと『食べたいのは目玉焼きだ』とシステム担当者に文句を言う。そんなことが頻繁に起きている。コンピューターは人間のように忖度しない。上に立つ人は、何をどうしたいかを明確に伝えないと、われわれも最適のシステムを作ることができない」
使い手にとってわかりやすいものにする努力も、もっと必要だろう。マイナンバーカードには役所用語がふんだんに使われている上、混乱を誘う要素が目につく。
例えば、「署名用電子証明書」「利用者証明用電子証明書」「住民基本台帳用」「券面事項入力補助用」の4つのパスワードを設定しないといけないが、いかにもとっつきにくい。
有効期限も2つある。カードに記録されている電子証明書の有効期限は、発行日から5回目の誕生日まで。カード自体の有効期限は発行日から10回目の誕生日まで。1枚のカードでありながら、別々の有効期限が設定されていることが混乱を誘う。
本当に使い手のことを考えているのか
取得時に未成年だった場合は、カードの有効期限は5回目の誕生日までとなっていることや、引っ越しで住所が変わった場合などには、期限内にマイナンバーカードの変更手続きもしないと失効してしまうなどの条件がある。ネットには、そうした「落とし穴」に落ちた人の体験談が寄せられているが、気づかなければ慌てることになる。
セキュリティーを高めるために設けられた仕組みだというが、使い手側の視点で見直し、よりわかりやすく、使いやすいものにする努力や説明を重ねることが必要だろう。
先に述べたCOCOAも、接触通知を受けた場合の対応は本人任せで、どう活用すべきかの位置づけが曖昧だったことが混乱を招いた。
使い手あってこそのマイナンバーカード。デジタル敗戦国から脱出するためには、その精神が問われているのだと思う。